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思い出の新書

これまで読んで心に残った新書を著名人の方や書店員の方に紹介してもらおうという企画、「思い出の新書」。

第2回となる今回は、2009年に1人で出版社・夏葉社を創業(当時33歳)、本好きが身を乗り出すような刊行ラインナップが大きな話題となっている同社の代表取締役・島田潤一郎さんに思い出の新書をご紹介いただきました。

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むかしは、新書というと、岩波新書、中公新書、講談社現代新書のいわゆる「御三家」で、本屋さんにひっそりとあった。大学の購買部にも並んでいた。気安い感じはまったくなくて、買うとしたら、勉強のためだけに買った。若者にはとっつきにくかった。

そのころも、ぼくは、小説を中心に、ハードカバーの本も、文庫本もよく買っていた。ハードカバーの本は、本として美しいと思ったものを選び、文庫本は値段が安かったから買った。社会の動静とは関係なく、自分の好きなものだけを選び、その世界に没頭していた。こうしたことは、若者の特権なのではないかとも思う。

新書をひんぱんに買うようになったのは、この5年くらいのことだ。自分がいま生きている社会がどういうふうになっているのか、無性に知りたくなった。そういうとき、新書が大変役に立った。

ぼくはいま38歳で、この数年、社会にたいして違和感を覚えながら、生活をしている。むかしは「あれが好きで、これが嫌い」だけで、世の中の大半のことをやり過ごすことができたが、いまはそうもいかない。

それは時代の速さとも関係しているのだと思う。ぼくが大学生だった20年前と比べて、時代は格段に速くなった。インターネットが登場してからは、特に、10倍くらい速くなったように感じる。こうした猛スピードの時代に追いつこうと思ったら、息急き切って、走らなければならない。ないしは、ビデオのストップボタンを押すように、どこかで立ち止まり、頭のなかでいろんなことを整理していかなければいけない。

本当は毎日、新聞を読むのがいいのだろうけれど、ぼくにはその余裕がない。読まなければいけない本がたくさんあるし、それに、なにより、毎日の仕事に追われている。でも、気になることがたくさんある。納得できないことがいくつもある。だから、ぼくは毎日のように本屋さんへ行き、新書コーナーを眺める。

社会のこと。政治のこと。経済のこと。それぞれの国の歴史のこと。難解な本への手引書や、あたらしい人物のあたらしい評伝。ぼくはいったい社会のなにを不満に思っているのだろう。

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紹介したい本はいくつもあるけれど、最近よく思い出すのは、岩波新書の『Jポップとは何か』(烏賀陽弘道・著)という新書だ。2005年に出た本だけれど、この本にはいまの社会を読み解くヒントがたくさん詰まっている。ぼくは、去年夢中になって読んだ。

「『世界と肩を並べる日本の音楽』が『Jポップ』なのではない。『世界と肩を並べたと日本人が思っている音楽』あるいは『世界と肩を並べたという商品イメージをつけた音楽』が『Jポップ』なのである」

1988年から2004年までの17年間のうちに、CD産業が急速に肥大化していき、そして挫折するまでの経緯は、どのようにしてひとつの文化が生まれ、それが商品になって、そして消費されていくのかをわかりやすく教えてくれる。

陳腐な言葉ともいえる「Jポップ」というコピーに着目し、その背景を丹念に探ることで、ある時代(またはある出来事)の正体を明らかにする。こうした切り口の鮮やかさが、新書の真骨頂であるように思う。

ちなみに、岩波新書が創刊されたのは、世界大戦の前年の1938年で、社長の岩波茂雄は創刊の辞として、「吾人は非常時における挙国一致国民総動員の現状に少からぬ不安を抱く者である」と書いた。

時代はどんどんと速くなっている。同時に、不透明に、不穏になってきている。本屋に行って、小一時間ばかり、立ち止まりたい。

【著者略歴】 島田潤一郎(しまだ・じゅんいちろう) 1976年、高知県生まれ、東京都育ち。日本大学商学部会計学科卒業。アルバイトや派遣社員をしながら、ヨーロッパとアフリカを旅する。小説家を目指していたが挫折。2009年9月に夏葉社を創業。2014年6月には初めての著書『あしたから出版社』を晶文社から刊行。草フットサルのプレー時には大好きなFCバルセロナのユニフォームに身を包む。

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