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思い出の新書

これまで読んで心に残った新書を、著名人の方や書店員の方に紹介してもらう企画「思い出の新書」。

第3回は、盛岡を中心に岩手県内に9店舗を展開する「さわや書店」で数多くのイベントを仕掛け、「北の仕掛け人」とも言われる書店員・栗澤順一さんに、思い出の新書をご紹介いただきました。

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こんにちは。私は盛岡市のさわや書店に勤めている栗澤と申します。

現在は外商とチェーン店全体の店売に関する仕事をしていますが、それまでは専門書売り場を中心に、長い間売り場で働いていました。

どうぞよろしくお願いします。

私は、日ごろから「新書」の役割は、動と静、大きく分けて二つある、と考えています。

動の部分は、時代を切り取り伝えることです。

新書の裾野が広がり、実用書版元からビジネス書版元まで、様々な出版社がこの市場に参入しました。その結果、新書は幅広いジャンルをカバーしつつ、その時々のトピックスをリアルタイム取り上げることが可能になりました。週刊誌の延長線、と揶揄されることも多いですが、新聞記事や雑誌の特集では読み足りない、かといって専門誌までには手が伸びない、と言った読者のニーズをうまく拾いあげているのは確かです。このスタイルは、これからもっと重要視されることでしょう。

静の部分は、哲学、歴史などの人文科学や数学、物理などの自然科学に関する普遍的な事柄、記録や事実を、後世に伝えていくことです。

専門書や学術書は、一冊の書籍を発刊するのに多大なエネルギーを必要とします。内容も高度になりがちで、値段も高くなってしまいます。誰もが気軽に出版し、誰もが気軽に手に取る、というわけにもいきません。

それに対して新書は、専門書や学術書に比べれば出版へのハードルは低く、手に取る側も廉価なため購入しやすい、というメリットがあります。その特性を活かし、学術書や専門書でカバーしきれない部分を、いままで新書がフォローしてきた、と言えます。出版不況が続き、作る側も手に取る側も一冊の書籍に対してシビアになってきている今日、この流れはこれからも大切にしていかなければなりません。

上記の二つを踏まえ、私にとってあらためて新書の奥深さを教えてくれたのが本書『被災地の本当の話をしよう』です。

本書が発行されたのは、2011年の8月。あの未曾有の被害をもたらした東日本大震災からまだ5か月しか経っていません。被害にあった沿岸部は瓦礫処理も進んでいない状況でした。そのタイミングで、岩手県でも被害が大きかった陸前高田市を舞台に、しかも著者は陣頭指揮にあたっている現役の市長、という臨場感あふれる本書が出版されました。

この時期、書店の店頭では、震災の写真集や記録集が数多く並んでいました。この後、震災関連の書籍は、ビジュアルを中心とした内容から、活字を中心とした媒体へと移行していきます。

そのさきがけとなった本書は、まさに新書の動の役割を活かした一冊だと言えます。一般書として出版しようとすれば、おそらくもっと遅い時期にずれ込んだでしょう。

被災地の現状をいちはやく伝えるために新書の形式で刊行する、と決定した出版社の英断に拍手を送りたいと思います。

また本書は、新書の静の役割として、震災後5か月時点での陸前高田市の記録として残せる書籍です。戸羽市長の視点からですが、この時点での簡単な復興プランが記されています。たとえば、復興は8年で実現させたい、という決意が示されています。まもなく震災から3年と半年。どの分野の復興が進んで、どの分野の復興が進んでいないのか。また、当時に比べ被災地をとりまく環境はどう変わったのか。折に触れて検証する際には欠かせない一冊だと思います。

最後に、本書で戸羽市長が印象深い一節を記しています。

「私があえてこの時期に本を出そうと決めたのは、とにかく陸前高田市を世間の人々に忘れてほしくないからです。」

被災地にとって、いちばん怖いのは、忘れ去られることです。現在、被災地の現状はメディアで扱われることも減りました。あれだけ出版されていた関連本も、書店の店頭から姿を消しつつあります。

そのような状況のなか、本書が新書で出版された意味がこれから大きくなっていきます。

なぜなら、本書は震災関連コーナーがなくなっても新書の棚に残る確率が高いからです。

その意味でこれからも、全国の書店の新書の棚に本書が並んでいることを願ってやみません。

きっとその積み重ねが、著者の言う「被災地を忘れない」ということに繋がっていくはずですから。

【著者略歴】
栗澤順一(くりさわ・じゅんいち) 書店員/さわや書店外商部兼商品管理部部長。95年岩手大学卒。さわや書店入社後、本店専門書フロア、フェザン店次長、仙北店店長を経て現職。教科書販売から各種イベントの企画、出張販売や各店巡回など、忙しく駆け回る日々を送る。趣味は深酒。