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思い出の新書

これまで読んで心に残った新書を、著名人の方や書店員の方に紹介してもらう企画「思い出の新書」。

第4回は、八重洲ブックセンター本店にてビジネス書フロア長をされている・木内恒人さんに、思い出の新書として『成功できる人の営業思考』(太田彩子・著/PHPビジネス新書)をご紹介いただきました。

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この本が発売された2011年当時、私は八重洲ブックセンターイトーヨーカドー葛西店という支店で店長を務めておりました。

正確に言うと、本が発売される前に、現在「天狼院書店」という書店を運営しておられる三浦崇典さんから、「自分が編集協力した本で、いいのが出来たので、ぜひ読んでほしい。そして気に入ったら貴店でも販売強化してほしい」という旨のメッセージと、発売前のゲラをいただいたのが、出会ったきっかけです。

私は八重洲ブックセンター本店2階のビジネス書売場から書店店頭の仕事をスタートさせていただきました関係で、「自分はビジネス書出身の書店員だ」と思っていましたし、同時に、ビジネス書が基本的に売れないスーパーマーケットの中にある本屋で、どのようにしたらビジネス書が売れるか、いろいろ試していたりもしていた時期でした。

実際に、当然女性客が多いスーパーマーケットなのだから、女性目線、女性の著者なら買ってくれるかも、と思って、今回取り上げた本の著者である太田彩子先生の著作を集めて「太田彩子フェア」をやったりもしていました。

そういう時に三浦さんからの提案がありまして、ありがたく飛びつきました。

最初は、営業のノウハウ本だと思っていました。

ところが、読んでいくうちに、

「営業とは誰かに認めてもらうこと」

という考えに基づいた、もっと普遍的な、可能性を大きく含んだ思考方法の重要性・有益性を説いた自己啓発本、といってもいいほどの内容でした。

しかも、机上の空論・理論だけでなく、実際に太田先生が営業職時代にその思考法に気付き、実践し、身につけていった過程・実例が丁寧に書かれていて、営業の仕事を通して書かれてはいますが、実は、「仕事とは」「人生とは」まで踏み込んだ、とても内容の濃い本だ、ということが分かりました。

けっして自分中心・ひとりよがりにならない徹底した利他主義(この場合は顧客主義)、すべての問題は現場にあり、解決方法も現場にある現場第一主義、柔軟かつ複数の仮説構築、それに基づく変化、これらのことを執拗に繰り返して徐々に目標に近づいていく習慣を身につけることの重要性など、営業職だけにあてはめるのはとてももったいない内容が満載です。

ご存知のように、太田彩子先生は、株式会社ベレフェクトの代表者で、女性の営業コンサルティングが得意分野であり、会社の枠を超えた「営業部女子課」という全国プロジェクトの主催者でもあります。本書はもちろんこれらの女性の営業の方をメインの読者に設定して書かれている所が多いのですが、私としては、ぜひとも男性の管理職・経営職に就かれている方にも読んでほしいと思います。

このように、とてもいい内容の本でしたので、スーパーマーケットの中の書店の店長としても出来るだけ多くのお客様に読んでいただきたくなりました。

当然新書としては異例の展開を仕掛けました。

仕入れ量は通常(5冊程度)の10倍(50冊)、置き場所も通常だと新書棚オンリーなのですが、それに加えてビジネス書棚・女性エッセイ棚・カウンター前・新刊コーナーなどに散らばせて、盛大にアピールし、実際に大きく売り伸ばすことに成功しました。

実感としては、新書で発行したのがもったいないくらい、単行本でも十分勝負出来たのではないかと思えたほどでした。

最後になりましたが、「新書」という媒体について。

いろいろなレーベルが濫立して、市場として飽和感がある、という方もいらっしゃいますし、実際に小説などのいわゆる「ノベルズ」の売れ行きは総合的に見るとそれほど伸びていないかも知れません。

それに比べて教養系の新書は比較的安価で、新聞や雑誌よりももう少し突っ込んだ内容を知りたい、という読者には最適なのではないかと思っています。

軽くて携帯にも便利ですし、何よりも、上述しましたような「アタリ」の新書に出会いますと、本当に得した気分になります。

読者としても、書店員としても、「アタリ」の新書がもっと増えてほしいと思います。

【著者略歴】
木内恒人(きうち・つねと) 書店員/八重洲ブックセンター本店販売課2階フロア長。2012年4月27日にオープンした八重洲ブックセンター丸井柏店の店長を経て、現職。好きな作家は浅田次郎。ツイッターID @kut6871。