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新書座談会

自社以外のオススメの新書をピックアップして、ざっくばらんに語り合う「新書座談会」。2014年1月刊からは、岩波新書のジュニア版として刊行されている「岩波ジュニア新書」より、萩原一郎・編著『人を幸せにする目からウロコ! 研究』を取り上げます。(構成・岡田寛子)

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大人が思わずうなる”知の入口”

菊地 岩波ジュニア新書は”知の入口”を標榜する新書において”夢”とか”希望”を強く感じさせるテーマを取り上げていると思います。中高生を対象とするシリーズだからということもありますが、他のレーベルには真似できない独特のラインナップには心ひかれるものが多くて、素敵だなあとつねづね思っていました。

そして、一般的に中高生向けと言われるシリーズと比較しても、「サイエンスもの」の割合が異常に多いということも特徴の一つだと思います。ブルーバックスやサイエンスワールドのように、サイエンスに特化した大人向けのレーベルがありますが、「岩波ジュニア新書」はそれらの入口でもあるように思います。

そういう意図で、サイエンスをテーマとした本書を取り上げたわけです。

 岩波ジュニア新書は、ジュニア向けと言いながら実は、けっこう大人も楽しめるラインナップなんだよね。2010年に出た眞淳平さんによる『世界の国 1位と最下位』は経済の入門書としてすごくおもしろく読んだし、池内了さんの『科学の考え方・学び方』も科学の入門書としてすごくおすすめです。情報が学生向けに集約されていて無駄がないので、「ネタを仕込む」「アイデアを出す」という用途にも使えるんだよね。企画を考えるときに、本を相手にブレストしたりとかしてます。

他にもラインナップに、TBSの『NEWS23』とタイアップした『綾瀬はるか 「戦争」を聞く』のような「ジュニア向け」というパッケージを超えた意欲的な作品もあり、実はもっと大人にも注目されるべきレーベルだと思います。この座談会を読んでくださっている方には、一度ぜひ手にとってもらいたいですね。

藏本 岩波新書と岩波ジュニア新書で同じ先生が書いている時に、岩波新書はちょっと専門的で難しいなと思っても、岩波ジュニア新書が読みやすくて面白く、「読者に伝える」という点でものすごく工夫がされていると感じることがあります。

例えば僕が名著だと思うのが、民法学者の大村敦志先生の『父と娘の法入門』。お父さんと娘の対話形式で法律を説明しています。「どうして名前って必要なのか?」というように、僕らでもはっとする疑問から話が進んでいくんです。法律の勘所をよくつかんでいる。ぜひ法学部に入りたい、岩波新書の法律入門を読む前に、岩波ジュニア新書に目を通してほしいです。もし本書に早く出会っていれば僕も最初につまずくことにならず、もうちょっと法律のわかる法学部生になれたかもしれません(苦笑)。

サイエンス独特のストーリーテリングの面白さ

 ジュニア向けという点では、今回取り上げた『人を幸せにする目からウロコ!研究』は、大人が読んでも”目からウロコ”の内容でした。

菊地 まえがきにもありましたが、日本人は「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して贈られる「イグノーベル賞」をもらえるような、おもしろい研究をたくさんしているんですね。簡単に言うと本書は、おもしろ研究を一冊にまとめた本です。目次を読むだけでも、おもしろそうな感じがする。ちょっと読んでみましょうか。

ネタバレ防止ブラウザの研究」「柑味鮎の開発」「対話型顔画像美観化システムの研究」「食べたつもりになるARダイエットメガネ」……。

藏本 読んでいると、ちゃんと目に光景が浮かんできますよね。視覚的な研究をとり上げているんだと思いました。話題のプレゼンテーションイベントの「TED」にも通じるような世界観だと思います。

 「食べたつもりになるARダイエットメガネ」が僕は一番おもしろかったな。

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ダイエットメガネを開発した鳴海拓志さんのウェブサイトより。http://www.cyber.t.u-tokyo.ac.jp/~narumi/

菊地 それは、原さんの目下の興味だからというだけなのでは……(笑)

藏本 でも、僕もこの研究をされた鳴海拓志さんの着想はおもしろいと思いました。たとえば、卒論の担当教授に「メガネをかけるだけで痩せられる、とかだと嬉しいんだけど」って言われて、それで始めちゃったと率直に書いてある。そんなに簡単に研究の方向を決めちゃうんだって驚きました。

 「君の研究は確かに面白いだけど使えない」ってなかなか身もふたもないところから始まるんだけど、ぐっと引き込まれたよね。

藏本 どの項目も、研究のおもしろさを8000字という指定の中でうまくまとめていると思います。研究職に少しでも興味がある高校生、あるいは大学生だったら、すごく知りたい内容だと思いますね。

菊地 僕は、この本を読んでいて「ああ、これは『サイエンスカフェ』だな」と思いました。「サイエンスカフェ」って最近巷でよく開催されているんですけど、研究者が高校生に自分の研究を知ってもらうために書店や喫茶店、その他いろんな場所で話をしているんですよね。トークイベントとしてはまず、キャッチーな内容を入口にして参加者を募る。それと同じ手法で、若い読者をサイエンスの世界に誘うような作りになっていると思いました。

藏本 たしかに、若手研究者による1時間くらいの講演という感じも受けます。

話はちょっとそれますが、「ニコニコ動画」の界隈で盛り上がっているものの一つに「ニコニコ学会」というのがあるんですけど、わりと若手の研究者が集まって、おもしろい研究を語るんです。最近だと「クマムシ博士」とよばれる堀川大樹さんや、「バッタ博士」の前野ウルド浩太郎さんなど、注目されている方が出てきていて、サイエンスの世界でも、若手の発信力は高まっている。本書は、そういう世の中の流れもうまく捉えた作品と言えるかもしれませんね。

 サイエンスの分野で日本人が健闘しているということが本当によくわかりますよね。「柑橘風味の鮎をつくる研究」なんか、最初に読んだときは妙な研究だなと思ったんですが、そういうことを大真面目にやっている姿にだんだん心が惹かれていきました。

どの項目を読んでも、研究者の情熱というのがすごくよく伝わってくる。その真剣さが結果的に「イグノーベル賞」にもつながるんだろうし、工業大国としての日本を支えてきたのは、そういう、誰にも理解されないようなことでも、とことん大真面目にやるという精神なんだと気づかされるんだよね。

本書には、研究者精神を伝える懐の深さもあるんじゃないかな。

藏本 研究というのは、ある意味で「無駄がすべて」なんだということは、読んでいて本当によくわかりますよね。本書に出てくる人は、例えば「この研究をすれば100億の利益になります」という動機で研究しているわけではない。でも「今は研究に10億かかるけど、もしかしたら100年後に100兆円とか、それこそ金でははかりきれない規模の利益になるかもしれない」。そういう夢は感じさせてくれます。

 そうそう。ダイエットメガネは「Googleグラス」に通じるものがあると思うよ。

藏本 すごい食いつきですね(笑)

菊地 原さんのダイエットの話ばかりになっても困るので、ちょっと話を戻しますけど(笑)。僕は「対話型顔画像美観化システムの研究」の冒頭、1行目にやられましたね。

「かつてカメラは真実をありのままに写すものでした」ってまるでミステリー小説みたいじゃないですか? この一文だけで、すごい展開が続きそうでワクワクしますよね。コピーライターが作ったキャッチコピーだって言われても信じてしまいそうです(笑)

藏本 ストーリーテリングはどの研究者もうまいですよね。自分の研究をちゃんと物語にしているというか……。

 いわゆる作家や脚本家やコピーライターがやるストーリーテリングとは違うんだよね。観客を意識したものでは決してない。研究者本人が大真面目にそう考えていて、純粋だというのが愛おしいのんじゃないかな。

最近、ドラマの『福家警部補の挨拶』をよく見てて、他の人が見過ごしてしまうようなことを、一度も笑わない主人公がいたって真面目に調べていく。あの主人公のキャラがおもしろさの一つだと思うんだけど、実際の世の中でも、そんなふうに常人が持ち得ないようなオーバーな熱量があるからこそ、真実に迫れるということはあると思います。本書も科学エッセイでありながら、こうしたミステリー作品に通じる真理を描いている気がしますね。

蔵元 どの研究者の話にも共通する物語がありましたね。STAP細胞の発見で話題になった小保方晴子さんにしても、あれはどちらかといえば天才ではなく秀才の偉業だといわれます。すなわち閃きがものすごいと言うわけではなく、一つのことを愚直にやりぬいた人がもたらした結果だと。そういったところが僕たちを非常に共感を得やすく、惹きつける物語の一つになっている気がします。

菊地 そうですね。そういうあり方が理系の人たちの趣向であるのかもしれないけど、僕はそれ以上に「子供向けに書く」という意識の賜物なのかもしれないなと思うんです。

 なるほど。

「ジュニア向け」だからこそできる本づくりとは?

菊地 常軌を逸した情熱や、愚直な姿勢が真理を発見するというストーリーが岩波ジュニア新書の特性と重なっているのかもしれない。そんな視点で巻末の近刊情報を読むと、そそられるタイトルが並んでます。『正しいパンツのたたみ方』とか、『部活で俳句』とか、『女性画家 10の叫び』とか……。どうですかね。

原・蔵元 気になる!(笑)

菊地 コピーとして刺さるものではないのかもしれないけど、くすぐられる感じがありますよね。どこまで意識的に、こうしたラインナップを続けてきたのかはわからないけど、タイトルだけでも「読んでみたいな」と思わせるものが多いですよね。興味をひくタイトルが大人向けの新書よりもはるかに多いような気がする。

 そうなんだよね! 『アスリートたちの英語トレーニング術』なんか読みたいなあ。藏本くんは『ご近所のムシがおもしろい!』とか好きなんじゃない?

蔵元 はい、早速探してみます(笑)。

あと、この本を探しに書店を回ったときに販促物として置かれている「岩波ジュニア新書ベスト10」という冊子を見つけたんですが、さきほど例に出た『正しいパンツのたたみ方』がランクインしています。やっぱり、気になるんですよね。でもこの本、新しい家庭科教育のあり方を書いた本みたいなんです。このタイトルからはなかなか想像できないですよね。

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 内容紹介もかっこいいよね。「自分で生活を整える力と社会の中で他者と生きていく力を育ててくれる教科・家庭科を通して、自立に必要な知識と技術を、10代の暮らしに沿って助言する」だって。

菊地 「家庭科の意義を伝える」ということを10代の読者に向けたらこのタイトルになる。それじゃあ、たとえば、同じ角度でビジネスマンに向けたらどうなるか。「正しいボタンのつけ方」とかになるのかな? でも、「ボタンのつけ方」じゃ新書のタイトルにはなりませんよね。「岩波ジュニア新書」は、この角度で成立する唯一のレーベルと言ってもいいように思います。

蔵元 「新書のライト化」ということがずっと言われているなかで、今のマーケットが具体的に求めているのはきっと「岩波ジュニア新書」のようなラインなのだろうと思います。2時間ぐらいで世の中のことがざっとわかる。なかでも本書は、ビジュアル的にもおもしろそうなので、「TEDx〝ヒトウロ〝」のようなメディアミックスの可能性も十分あると思います。

菊地 最後に、いきなり話を違うところに飛ばしますけど、僕がこの会社にいて一番誇りに思っているのは「角川文庫 発刊の辞」なんですよね。というわけで、他のレーベルでも発刊の辞をよくチェックするんですけど岩波ジュニア新書にもちゃんとありました。ちょっと紹介します。

「岩波ジュニア新書の発足に際して

君たち若い世代は人生の出発点に立っています。きみたちの未来は大きな可能性にみち、陽春の日のように光輝いています。(中略)

若い世代の良き話し相手として、このシリーズを注目してください。わたしたちもまた、きみたちの明日に刮目しています」

すごく素敵です。文章が眩しい(笑)。これがそのまま「岩波ジュニア新書」を表しているんだと思います。岩波ジュニア新書編集部の方々には、この言葉のとおりに頑張っていただきたいです。僕もまたそんな「岩波ジュニア新書」の明日に刮目しています(笑)

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(了)

今回の参加者

 角川oneテーマ21編集長。1月新刊のオススメは津田大介・著『ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す これからのソーシャルメディア航海術』(PHPビジネス新書)。情報収集だけでなく、刺さる発信を考えなければならない現代の編集者にとって必携の一冊です。

菊地 角川oneテーマ21副編集長。サイエンスもの、という意味では1月に講談社現代新書から発売された吉田武・著『呼鈴の科学――電子工作から物理理論へ』を買いました。まだ読んでないんですけど(わーっ)。オビにある「見て感じて考える謎解きの電磁気学」というコピーに店頭でぐっときました。一緒に同じ講談社現代新書の高木徹・著『国際メディア情報戦』も買いました。まだ読んでないんですけど(わーっ)。

蔵元 角川oneテーマ21平部員。1月新刊では同じくジュニア新書系から『路地の教室――部落差別を考える』。著者の上原善広さんは部落の今を扱った『日本の路地を旅する』(文春文庫)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞されていますが、非常に文章に味があり、注目しています。本書もいま、この問題をあまり知らない僕らの「なんとなく」の知識に寄り添っていて、非常にわかりやすく、かつバランスをとって問題を論じているように思いました。