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新書座談会

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自社以外のオススメの新書をピックアップして、ざっくばらんに語り合う「新書座談会」。2014年4月刊からは、新潮新書の『だから日本はズレている』(古市憲寿)を取り上げます。(構成・白坂微恵)

若者目線で日本の「ズレ」を鋭く検証

藏本 今月の新書からオススメしたいのは、古市憲寿さんの『だから日本はズレている』です。「新潮45」での連載を一冊にまとめた本で、僕は連載時から読んでいたので、刊行を楽しみにしていました。

菊地 まずパッと見て、帯のデザインがすごく良いなと思いました。世の中で言われていることとは真逆を行くような文言が並べてあって、「29歳の社会学者」という惹句が効いている。今の若い世代はどういうことを考えているのだろう、と手に取る人も多いんじゃないかと思います。

藏本 巷でまかり通っている常識って、なかなか改めて考え直したりはしないですよね。でもそういう、よく考えたらおかしいな、というような事柄に対して、この本では、なぜそんな言説が流布することになったのか、どうして日本はズレたのかということを、一つひとつ分析をしているんです。非常に共感しながら読みました。

 まさに、古市節全開! って感じの一冊だよね。評価すべきものは評価するが、叩くものはガツンと叩く。世間が声高に言っていることに対して、疑問を呈したり、皮肉な合いの手を入れて相対化する。文章のうまさ、語りのうまさが良く出ています。

藏本 古市さんのファンにはたまらない本ですよね。

『ヤンキー化する日本』でご一緒させていただいた與那覇潤先生から、以前、新書での対談集について、〈多彩なキャスティングからその人の論を掘り下げていく、ある種の「一人雑誌」的な形で、新たなジャンルとして定着したらいいですね〉、というようなことをおっしゃっていただいたことがありました(與那覇先生は先行する形で『史論の復権』(新潮新書)という、『中国化する日本』(文藝春秋)の議論を下敷きにした対談集を出されていました)。

『だから日本はズレている』は対談ではありませんが、似たようなテイストを感じました。今世の中で取り上げられているホットな事柄、たとえば「クールジャパンについてどう思う?」「リーダー論について語ってください」とボールを投げたら、古市さんがこちらの期待したものに、さらにひとひねりを加えて答えを返してくれる、というような。

菊地 安価で読みやすいという、新書のパッケージの特性を熟知したつくりになっています。様々な事象に対して、この著者はこう考えている、ということを編集して1冊という「かたち」にする。その際には必ずしも真新しい意見を入れなければならないという必要はないと個人的には思いますし、優れた商品として成立する要件を満たしている一冊だと思います。

 そうだね。新情報が盛り込んであるというタイプの本ではないけれど、既存の意見や主流の意見を紹介し、それに対するカウンターを出す、というやり方で両論が分かりやすくまとめられている。だからこの一冊で現在の世の中の流れ、これから起こりそうな潮流をコンパクトに知ることができる。このまとめ方のうまさが古市さんの強みだよね。

そういう点では、「朝まで生テレビ!」によく呼ばれるのも納得という気がします。「朝ナマ」って結論を出す場じゃなくて、パネリストのいろんな代表的意見を一度に学べる、意見の展覧会のような番組だから面白い。そこへ古市さんが呼ばれるのは「若者代表」というだけじゃなくて、いろんな意見を気の効いたフレーズを混ぜながらまとめて表現できるという点がポイントだと思うんだ。

藏本 あと、僕が一番腑に落ちたのは、p.111の〈日常を支配するのは、「論理的に正しい」とか「証拠から考えて正しい」といった「正しさ」ではなくて、「よくわかんないけど、そうなんじゃないの」という「もっともらしさ」である。〉という文章です。世の中って必ずしも論理的じゃないし、声の大きい人の意見や、メジャーな意見がなんとなくまかり通っていくものですよね。でも、案外そういうことはみんな言わない。論理的に話し合おうとして、こじれていく。こういう現実を真正面からいえるのが、古市さんの魅力だと思います。

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日本に跋扈する「おじさん」なるものとは

菊地 藏本が今言ったような、もっともらしさがまかりとおる状況を作ってきた人たちが、〈おじさん〉。本書では、〈おじさん〉を、中年男性に限らず、〈いくつかの幸運が重なり、既得権益に仲間入りすることができ、その恩恵を疑うことなく毎日を過ごしている人〉と定義して、ズバっと斬り捨てています。そして〈おじさん〉は〈「今ここにないもの」に過剰に期待〉している、と。だから、古市さん自身、未来に対して過剰に期待していないし、常に手元にあるものについて論じている。そういう点で、地に足が着いている印象を受けるし、国家の経済成長という幻想が壊れた今、受け入れられるのも分かります。

 ぼくは今、39歳で、まだおじさん世代じゃないと信じているんだけど。

菊地 おじさんです。

 そうかい(笑)。いや、やっぱり読んでてちょっと、シュンとしてしまったところがあるんだよね(笑)。だから、読者のおじさんたちは、どんな感想を持ったかすごく気になります。

すごいのは、これだけおじさんを批判する、というのは要するに、いまいちばん新書を買ってくれる層を叩いているわけだけど、にもかかわらずものすごく売れてるということ。売上ランキングを見ると、時節柄「嫌韓」「反中」本が多くランクインしているんだけど、そういう保守層、おじさん層受けする本を抑えて一位を独走してるの。

菊地 嫌韓、反中本ブームの揺り戻しというか、反動で日本論が売れるという状況もあると思うんですけど。

 でも、日本礼賛ではまったくないし、おじさんたちが読んで溜飲を下げるようなタイプの本じゃないんだよね。あとがきにあるように、本来つけたかったタイトルは『「おじさん」の罪』というくらい。ところが購買データを見ても、その「おじさん」たちがよく買っているんだよ。手に取りやすいように、編集部がかなり工夫をしていることは感じられるんだけれども。

菊地 若い人はどのくらい読んでいるんですかね。後半は、そういうズレた日本社会の中で生きる若者に取材した内容になっているけれども、この辺りは、若者世代として藏本はどう思った? 

藏本 僕が若者世代を代表できるかは疑問ですけど、少なくとも僕や周りの人々が肌で感じていることを取り上げてくれていると思いました。例えば〈「今、ここ」で暮らす自分や仲間を大切にすること。自分たちが行きやすい環境を作ろうとすること。それは、結局社会を良くすることになるのだ。〉(p.217)

学生の頃は、デモや革命で社会を変えてやる、という人には数えるほどしか見たことがありませんし、「アップルのような会社をつくって世の中に変革を起こしてやるぜ」と言う人も、あんまり会いませんでした。一方で、ボランティア然り、学生団体然り、社会起業然り、地域活性然り、とにかく「自分のできることから少しでも社会の役に立ちたい、それで少しでも社会を住みよくしたい」という人はたくさんいました。

こういったリアルを、言説化しようとしている人って、まだそんなにいないんですよね。それを特に「おじさん」に向けて訴えるというのは、古市さんならではの仕事だなあと思います。古市さんと他に数えるぐらいの人しか言ってくれないということにも、「ズレ」があるのかもしれないですけどね。

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これから若者は「おじさん」にどう向き合うのか

 29歳の古市憲寿さんだから、というのは大きいよね。この内容を40代、50代の学者が論じたところで、印象はだいぶ変わってしまうと思うな。

菊地 古市さんは、今の政治状況や国のあり方と、実生活との乖離を感じ取っていて、若者が理解できない対象として〈おじさん〉という言葉を使っているわけですよね。幻冬舎さんから『女性資本主義論』という本も出たようですが、その本も旧来のあり方を「おっさん資本主義」と名付けてるようですね。

藏本 「マネー資本主義」に対する「里山資本主義」、みたいな。

菊地 それで今後、そういった「おじさん」「おっさん」的なるものに対して、若い論者がどういう姿勢をとっていくのかということは注目していきたい流れです。世代間闘争があらわになっていくのか、あるいは、理解できないものとして向き合うことすら避けるのか、やめるのか。

 社会の要請を敏感に感じ取って言語化するのも社会学者の重要な仕事。これから起こる潮流に先鞭をつけた一冊になるかもしれないね。それから、古市さんは自分の役割を良く分かっている人だから、彼自身が今後どういうものを論じていくのかも気になるところだよね。

菊地 そうですね。古市さん自身がこれからおじさんになっていく過程で、社会学者としてどうサバイブしていくのかというところは要注目です。

 それにしても、新潮新書は良く分かっているなあ。出版社って、年度予算で少しでもアドバンテージを得るために4月は特に力を入れるんだよ。そこでこう、古市さんというスターを用意して、明確にスタートダッシュを切ってくるという……。

菊地 原編集長、それ、かなり〈おじさん〉的発想ですよ(苦笑)。

今月の参加者

 角川oneテーマ21編集長。講談社現代新書のサイトが5月にリニューアルされまして、なかなかカッコよくてうらやましいです。4月刊行の新書で思わず手に取ったのは『子どもの夜ふかし 脳への脅威』(三池輝久・著、集英社新書)。うちの子どもが夜全く寝てくれなくて、リアルに不安を感じています。

菊地 角川oneテーマ21副編集長。4月刊でほかに気になった新書は『植物は人類最強の相棒である』(田中修・著、PHP新書)。オビに写真が載っている「合体植物 キャベコン」ってなんですか。あと、「『肉食系』でも『草食系』でもない『植物系』」という「(もはや動物でもない存在として)下に見られた」フレーズに憤る様が格好良いです。

藏本 角川oneテーマ21の若者、というか若輩者。4月刊のオススメは三度改版を重ねた超ロングセラーの全面改訂版である『新・世界経済入門』(西川潤・著、岩波書店)。そして、まえがきにある〈グローバリゼーションの時代に私たちにとって必要なことは、身の回りから世界を変える一歩を踏み出すことであり、それがじつは、私たち自身が納得し得る自前の「豊かさ」を獲得する行動につながる〉というのは、担当した4月刊『ツカむ!話術』にてパックン先生が言っていることともシンクロしています。ぜひ「話術」を磨いて一歩踏み出しましょう!