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新書座談会

自社以外のオススメの新書をピックアップして、ざっくばらんに語り合う「新書座談会」。今月は、朝日出版社のideaink〈アイデアインク〉シリーズから出ている、佐久間裕美子さんがアメリカ発の新しい生き方や価値観の潮流を紹介した『ヒップな生活革命』をピックアップ。レーベル考察や、編集者それぞれが感じる”ヒップな生き方”への想いが赤裸々に吐露されました。(構成・稲田豊史)

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新書? 新書じゃない?

 今回は朝日出版社が2012年1月に立ち上げた「アイデアインク」というシリーズの11冊目にあたる『ヒップな生活革命』です。菊地くんの推薦だね。

菊地 僕はここ最近、雑誌『WIRED』に代表される、「ビジネスとテクノロジー」とか「ビジネスとサイエンス」みたいなトレンドを意識的に追っているんです。そういう潮流って、一種のタイムマシンじゃないけど、アメリカでのムーブメントがいくらか遅れて日本に入ってくるように感じています。本書でも、カバーに一行キャッチ(コピー)で「アメリカから、変革の波が広がる。」とある。だから日本でも、本書で言われてるような流れが出てくるんだろうな、と。それが良いか悪いかは別にして、楽しみではあるので、取り上げてみました。

藏本 でもこれ、単行本ですよね?

菊地 そう。最初に言ってしまうと、「新書座談会」と謳っていながら、Cコード上、この本は新書じゃないんです。

 出版業界以外の方に向けて説明すると、Cコードというのは裏表紙カバーのバーコードの下についている図書分類コードのことで、Cの後の4桁の数字がそれにあたります。書店においては、その本がどのコーナーに置かれるかが決まるひとつの指標になるわけだね。新書はCコードの2桁目が「2」、例えば「C0295」とかになるんですが、本書は「C0036」。つまり新書ではない。

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四桁の数字は、最初が販売対象コード、次が発売形態コード、下二桁が内容コードとなっている。販売対象は実用書なのか専門書なのかなどの大きな読者対象を示す枠組み、発売形態コードは単行本、文庫、新書、あるいはコミックなのかなどの判型に関わる枠組み、内容コードは日本の歴史なのか、哲学なのか、スポーツなのか、評論なのかといったジャンルに関する枠組みを示す。

上記であれば、0=一般書、2=新書、30=社会科学総記 となる。

菊地 本書は単行本なのにいわゆる新書の判型を採用し、カバーや本文用紙の紙の色を統一しています。そのアートディレクションの部分においても、創刊時から話題になったレーベルですね。

 辞書的に言うと、「新書のサイズでつくられたものが新書」で、「ノベルズ」とか言われる新書判の小説なんかも新書なんですが、出版業界的に言うと、「新書コーナーに置かれているものが新書」という言い方もできます。だから新書編集者たちは新書コーナーに来るお客さんに向けて本をつくるんですが、当然、そのお客さんには傾向があるので、つくるものにある程度制限がつく。その制限から抜け出すべく、単行本コーナーに置かれることを目指す、っていうのがCコードを変えた意味、ってことかな。

菊地 そうですね。実際、アイデアインクが書店店頭で新書コーナーに置かれているケースは多くないと思いますね。

藏本 レーベルが、棚としてまとまって置かれている書店はあまり見ないですね。ある書店では、シリーズ3冊目『芸術実行犯』(Chim↑Pom・著)の時くらいまでは、既刊の3冊がまとまって置かれていましたけど。今回の新刊は、単行本の芸術コーナーに置かれていました。

菊地 アイデアインクの刊行ラインナップを見ると、新書売上ランキングで上位に上がってくる本とはテーマが大きく違うことがわかります。今の新書の売れ筋テーマは「政治」「経済」もしくは「教養」なんかで、読者層は40代から50代が中心、かな。でも、そういう人はChim↑Pomなんて絶対知らないでしょう。アイデアインクは明らかに、いわゆる新書読者層を相手にしていない。

藏本 僕の理解では、新書って「新聞・テレビ・週刊誌」的なもの。だけどアイデアインクはどちらかというとインターネット的。ソーシャルやコミュニティといった、新しい概念やカタカナ言葉に親和性の高い人向けなんだと思います。

 新書サイズにした理由はいくつかあると思いますが、ひとつは値頃感でしょう。本書は180ページ、税抜き940円だけど、この文章量でいわゆる単行本サイズにすると、少ないページ数で割高の印象を与えてしまう。アイデアインクシリーズは、新しい食べ物やファッションの価値観を提案する内容のものが目立つけど、そういったポップな提案をやるうえで、値段の張るものには読者がついてこないのではないか。そんな読みがあったんじゃないかな。

一種類の紙で一冊の本をつくるこだわり

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 あとはデザイン的な仕掛けだね。今日、本をシリーズ買いする習慣はほぼなくなってしまったけど、かつては岩波、中公、講談社現代新書が毎月各4冊出ていて、愛好者がその4冊全部を買うことがステータスだった時代もありました。

藏本 シリーズ買いの傾向は、現在でも岩波新書の大学生協での売れ行きからは見て取れますね。

 だからアイデアインクはレーベル買いをさせる目的でスタイルを設計したんだとも言えます。11冊あって8冊買ったら、残り3冊買わないと本棚的に気持ち悪い、というような。今の市場でそんな効果を出している出版物は、文学全集くらいかな。

菊地 それで思い出しました。かつて講談社現代新書がデザインを変えて、本の背に書名ごとに異なる色を付けた時期がありました。棚差しされた時にいろんな色がバババーっと目に入りましたよね。その後、白地に黒文字というシンプルなものに戻りましたけど。アイデアインクも当時の講談社現代新書と同じように、棚差しした時に背の色がばらつくんですけど、きれいに8色が順番に展開されてるんですよ。3冊目が黄色なら4冊目はピンク。緑の次に緑は来ない。それはそれで綺麗です。

 アイデアインクシリーズに使われてる紙は、カバー、表紙、本文、スリップすべて「色上質」という同じ紙で、厚みだけ変えたものを使っています。一種類の紙と色で装丁を統一するというのは、思いつく人はいるかもしれないけど、実行に移すのは珍しい。そもそも本文用紙を白ではなく色紙にすること自体、編集者的にはためらうところです。「読みにくくなるんじゃないか?」ってつい言い訳を考えてしまうんだよね、やってみたら、やっぱりカッコ良かったという。

藏本 ええ。全然違和感はないんですよね。昔は「本文用紙は白」「でも白すぎちゃダメ」と言う人がいたと聞きますが、色紙でもまったく気にならない。

菊地 このシリーズには読者ハガキが挟まれているんですけど、ハガキの色も同じ色上質の同色なんですよ。実は創刊の時、ハガキの色は白だったんです。ところがTwitter上で読者から「ハガキも色を揃えたほうがいいんじゃないか」って声があがって、それを出版社側が採用。最終的に本体同色になった経緯があるんです。このやり取りをリアルタイムで見ていたんですが、ほんと出版社は頑張ったなあって思います。話題作りの種にもなりましたし。

 ただ、ハガキを書いて送っちゃうと、そこまでこだわった本のパーツが欠けちゃうんだけどね(笑)。

菊地 レーベル全体のデザインを手がけたのはグルーヴィジョンズ。かわいらしさもあるし、すごくちゃんとデザインされています。僕は雑誌が好きでよく読むんですが、その雑誌がデザインにどれくらい力を入れているかは、いわゆるレギュラーページと呼ばれる、カルチャー紹介ページのクリエイティブを見ればいいと言われます。神は細部に宿るではないですが、ハガキ1枚に至るまで目配せができているという意味では、ブランドイメージの構築に成功していると思います。

マーケティング本として有用性が高い

菊地 中身の話に移りますが、本書は大量消費を前提とする資本主義へのアンチテーゼを、個人レベルで感じている人たちのことを「ヒップスター」と呼んでいて、それがムーブメントになっている、と。彼らの価値観や概念が、アメリカの中で大きな力を持ちつつありますよ、という内容です。実は日本にいる我々もそれとつながっているというか、ふと立ち止まって振り返れば、そういう潮流や現象を確認することができるんですけどね。

 具体的には?

菊地 日本で売れた本を例にあげるとわかりやすいです。たとえば、ヒッピー文化を引っ張りつつスピリチュアルを打ち出して売り伸ばした本として、うちから出した『ザ・シークレット』がある。ヒッピー文化を根っこにしてビジネスの方に援用した話ならば、NHK出版の『フリー 〜〈無料〉からお金を生みだす新戦略』や、日経BP社の『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』です。ヒップスターのクラフトマンシップ的な嗜好の根っこになってるのが、これもNHK出版の『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』ですね。

藏本 なるほど。

菊地 本書には食べ物の話も出てきますけど、それを日本で言ったのが速水健朗さんの『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』(朝日新書)でした。ただ、『ヒップな生活革命』にはサードウェーブコーヒー(小規模で本格的なコーヒー専門店の潮流)の話も出てきましたけど、サードウェーブコーヒーって日本の喫茶店文化からの影響を受けているので、日本に元々あるわい!という言い方もできるんですけどね。本書を教科書的、副読本的に使えば、そういった断片的な現象を読み解ける。マーケティング本として有用だと思います。

 たしかにマーケティング本の一種だね。読者がヒップスターというスタイルに憧れたり参考にしようと読むケースもあるとは思うけど、マーケティングの参考事例として読む人のほうが多い気がする。

菊地 新しい話としては、サードウェーブコーヒーの代表的なコーヒーチェーンであるブルーボトルが、この10月に日本第一号店を清澄白河にオープンしますね。

 ただ、日本とアメリカでは受け入れられ方が違うから、そのまま日本に持ってきても上滑りして終わるものも多いんじゃない? これは著者があとがきにも書いていることだけど、ここからものをつくろう、ビジネスモデルをつくろうと思ったら、日本人の文化を踏まえて見つめ直す必要がある。

藏本 要は、地に足をつけてその場所の固有の価値は何かを考えねばという話ですよね。そういう点では、僕は『里山資本主義』のアメリカの事例版かなとも思いました。

菊地 あと、これってマガジンハウスの雑誌『POPEYE』にも近いものがあります。『POPEYE』って2年前に「シティボーイ復活」を謳ってリニューアルしてから売れてるじゃないですか。

 売れてるんだ、『POPEYE』。

菊地 売れてるようですよ。2013年には「雑誌大賞」の準グランプリも獲っています。かつて言われていたシティボーイと今のシティボーイは意味が変わっていて、それを言語化している人もいないし、僕も言語化できるとは思わないですけど。少なくともかつての『POPEYE』は完全にメイドインUSAで、『ヒップな生活革命』にも登場する『ホール・アース・カタログ』の買える部分だけをカタログ化していた。今の『POPEYE』は、『ホール・アース・カタログ』のカタログじゃない部分だけがもてはやされているとも言える。「ヒップスター」と雰囲気としては似ているし、流れとしてはすごく面白いと思います。

細分化されたタコツボ

 我々3人は世代が違うわけだけど、これらのムーブメントに対する気分はけっこう違うのかな。

藏本 僕は28歳でこの中ではいちばん若いですけど、わりと常識でしょって感じです。

原・菊地 うそだあ(笑)。

藏本 いやいや、僕自身、本書にも出てくるパタゴニアの登山用具を買いますし。本書に出てくるような 「コミュニティ、つながり、品質、創造性を大切にしたライフスタイル」を実践してますよ、僕は!

 だって、君のライフスタイルにおいては、見たところそういう思想ってぜんぜん実践されてないじゃない。

藏本 たしかに、ご飯は基本コンビニですけど(苦笑)。でも僕に限らず、学生団体に所属して社会に目を向けていたような人たちにしてみれば、こういうムーブメントがあるのは当然知ってるよという話じゃないですかね。三浦半島で農家をやってる友人も、地元の商品にどうやってつながりを感じさせて東京で売るかを思案しています。そういうのは僕らの世代にとってわりと常識というか、浸透した話だと感じますね。「おじさん」には伝わってしないかもしれませんけど。

菊地 僕は34歳ですけど、こういう流れが来るのは、スローライフみたいなところから考えれば、まあそうだろうなあという感じはしています。実際、郊外に出て行く同世代がちょっとずつ周囲に現れ始めたんですよ。都心部に住んでいた人たちが、もう一度郊外に出ていっている。ある知り合いは鎌倉に住んでいて、本書みたいな生活をまるまる実践してるような感じです。

藏本 スローライフからのつながりですか?

菊地 たぶん。それと、かつてスローライフと同様に、「エコ」の潮流があったじゃないですか。エコカーが登場したりとか。でも、それらの動きはどこまで行ってもファッションであったことは否めないと思うんです。「自分が何を身に纏うか」で他者との差別化を図る、他者と自分を隔てる方法のひとつだった。「ヒップ」も同じで、またひとつ細分化されたタコツボのひとつが出てきたんだな、それが今「見える化」したんだなという印象です(笑)

 わりと冷静な分析だね。

菊地 さっきも言いましたが、どこまで行ってもマーケティング的な感じはするわけです。そういう意味では「ヒップスター」と「美魔女」は同じともいえるかもしれません。そこにビジネスもくっついてくるし。

大量消費時代の先にあるもの

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 レーベルの話に戻ると、そもそもアイデアインクというレーベルは、立ち上げ当初から大量消費に対する抵抗姿勢が一貫してるわけですよね。1冊目『情報の呼吸法』の津田大介さんは、大メディアに対抗すべく、地に足の着いたTwitterなどによる情報発信の有用性を主張した。10冊目『本の逆襲』の内沼晋太郎さんは、大出版社・大書店に限らない本の売り方や読まれ方がないかと考え、その隙間を提案した。大きい存在に対する「それだけじゃないだろう」という気分。それにシンパシーを覚える人が買うシリーズです。新聞などと違って、別に世の中の全員を相手にしているわけじゃない。共感していて、ヒントを求めてる人たちに対して、「こういうやり方もありますよ」と言っている。必要としている人のところにだけ話が届くという意味では、「本」というメディアでやるのはひとつの正解なのかなと思いました。

藏本 そういえばアイデアインクシリーズって電子書籍版を出していないんですよね。新しいガジェットの話も出てくるし、ソーシャル、コミュニティといったテーマを取り上げるのであれば、電子書籍版を出すのが自然だと思うんですけど……。

 藏本くんの言うように、たしかにアンビバレントだよね。本来的には電子の世界で拡散するにふさわしい内容ではあるから。ただ、電子書籍にしないことにも意味があると思う。電子にしちゃうと、プロダクトとして色や紙を統一するこだわりが意味をなさなくなる。現代の編集者は、電子書籍への抵抗を大なり小なり考えなきゃいけないわけだけど、そういう状況下において、出版界隈の人たちにとっては、ひとつの参考になるやり方かな。

菊地 その一方、マーケティング界隈にいる人たちがこの本で何を読みとくかというと、4Pを使ったマーケティング・ミックスの時代は終わったということなんですよ。4PとはProduct(製品の品質)、Price(値段)、Place(流通のチャネル)、Promotion(宣伝手法)です。大量消費時代を前提に、何十年も前に提唱されたものですが、それはもう終わりましたよという主張とも読める。実際はとっくの昔に終わってるんだけど、2014年の今に「終わったよ」と言うことが読者の共感を得られる時代になってきた、と。うちで今年5月に出した『物を売るバカ 売れない時代の新しい商品の売り方』でも著者の川上さんは「物を売るな、物語を売れ」と主張されていて、まさにこの「4Pミックスではない」という話をされてるんです。立ち位置は微妙に違えど、ディスカヴァー・トゥエンティワンの『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』も売れている。この本は4PのうちのPromotionの分野ですけど。

藏本 本書の125ページにも「モノに付随するある種の物語を求める『プラスアルファの価値観』が登場し、それに消費者が呼応していることをこれまで見てきましたが……」とあります。この一文がまさにそれですね。

菊地 マーケティングを学んでいた僕からすると、「2014年の今、共感を呼ぶのか!!」という発見でもある。

 その話を引き受けましょうか。編集を志す方はぜひ読んだほうがいい『はじめての編集』(アルテスパブリッシング)という本があるんですが、これはアイデアインクシリーズの編集をやられている菅付雅信さんが書かれたものです。

藏本 いい本ですよね。 

 ここで、糸井重里さんのつくった名コピーが紹介されています。西武百貨店の「ほしいものが、 ほしいわ。」――コピーの終着駅としてこれ以上のものはないわけですよ。これの発表後に出てきたコピーライターは、このコピーにどう対抗するかを前提に仕事をしなければならなくなった。僕も、これは日本の消費社会を見事に言い尽くした言葉だなと思うんですが、アイデアインクシリーズの問題意識もここから出てるんだなというのがよくわかります。つまり、「ほしいものが、 ほしいわ。」に対する菅付さんたちの答えの模索が、アイデアインクシリーズなんですよ。テーマ的にも売り方的にも大量消費ではない地道な戦いを続けている。そういう意味でもカッコいいシリーズだなと思うわけです。

(了)

今月の参加者

 角川oneテーマ21編集長。アイデアインクは編集者的にとても勉強になるシリーズで、津田大介さんの『情報の呼吸法』、内沼晋太郎さんの『本の逆襲』は、マスコミ志望者なら読んでおいて損はない本です。7~8月刊ですが以前紹介した細野晋司さんの『グラビア美少女の時代』(集英社新書)の続編的作品、金子達仁・著、小林紀晴・写真『美女の一瞬』がさすがという出来でした。

菊地 角川oneテーマ21副編集長。7月刊といえば手前味噌ですが、アントニオ猪木さんと辺真一さんの共著『北朝鮮と日本人』を担当、刊行しました。そして、このつながりから8月末に北朝鮮・平壌に自腹で旅行(団体ツアー)してきました!現地でISBNがついた子供向けの本も土産として買ってきました!

藏本 角川oneテーマ21編集部員。野暮な人間だからこそ、クールなものに対して憧れと嫉妬があります。7月刊行では『古典を読んでみましょう』(ちくまプリマ―新書/橋本治・著)。あらすじを追うだけではわからない、むしろわからないという体験の中に古典という言葉への新たな発見があったりします。案外日本のヒップスターのヒントは清少納言や鴨長明に見つけられるのかもしれません。