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新書座談会

自社以外のオススメの新書をピックアップして、ざっくばらんに語り合う「新書座談会」。今月は、2014年8月刊から元岩手県知事で現在野村総研顧問を務める増田寛也氏による話題の書『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』(中公新書)を取り上げます。(構成・澤島優子)

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「教養の中公」からのタイムリーな1冊

 今回は、増田寛也編著の中公新書『地方消滅』を取り上げます。新書座談会という企画がスタートして以来、いつかは中公新書を取り上げなければいけないと、ある種使命のように思ってきたんですが、教養新書の御三家といわれる岩波、中公、講談社現代新書の中で、これまで中公新書を扱う機会がなかなかありませんでした。中公新書は、御三家の中でもとりわけアカデミック色が濃厚で、ニュース解説やビジネススキルもの、スポーツ・芸能ものなど、さまざまなテーマがあふれている今の新書業界にあって、昔ながらの大学生にとってのサブテキストのようなカラーを堅持し続けている新書と言えます。それだけに、ここで取り上げるタイムリーな切り口を見つけるのが難しかったわけですが、ようやく本書が登場しました。最初に言ってしまいますが、今年の新書大賞の有力候補の一冊だと思います。現在も入手困難なほど売れています。

藏本 僕も、参考資料としてさっと目を通して担当の先生に一冊買ってお送りしたあと、自分の分を買おうとしたら書店はどこも品切れ状態。9月15日になってようやく入手できました。

 座談会の数日前になんとか手に入ったという感じで、アマゾンでも全然手に入らず、早くも中古で高値が付いているほどだったね。

菊地 中公新書は本来、大学で教鞭をとる学者や研究者が著者になることが多いんですね。執筆にも時間がかかるので、何年も前から企画を仕込んで執筆をお願いし、時間をかけて出版までもっていくというスタイルです。そのため、年間の刊行予定がその年の頭にはきちんと決まっている、という話を以前聞いたことがあります。ですから、今年の5月に雑誌「中央公論」6月号で「消滅可能性都市896全リスト」が発表され、それを元に構成した本書が8月に刊行されたというのは、非常にスピーディーな展開で、中公新書としては異例のことだと思いますし、それが非常に売れているというのも中公新書っぽくないかなとも思います。

藏本 スピーディーなもの、ライトなもの、タイムリーなものは中公新書ラクレで扱って、中公新書は手を出さないという明確な棲み分けがされているという感じがあります。

 中公新書ラクレは中公新書のサブレーベルで、例えば9月の新刊には人材コンサルタントの常見陽平さんによる『リクルートという幻想』がありますが、これなどは10月中旬にリクルートが上場するという状況をふまえた、いわば「時期合わせ」の刊行です。そういうタイムリーに対応するレーベルとして中公新書ラクレがあって、中公新書は時事ものを追うのではない、教養新書という立ち位置を律儀に守ってきた。いわば違う時間軸の中で勝負を続けてきているようにみえる。

そんな従来のイメージに反して、本書は非常にタイムリーな企画であるわけです。9月頭には内閣改造でアベノミクスの成果を地方にまで浸透させるという重大なミッションを持つ「まち・ひと・仕事創生本部」の担当大臣に石破茂さんが任命されましたし、さらに、この創生本部の委員に本書の著者である増田さんも加わっています。本書が時期的にも「はまって」いる一冊であることは間違いない。

藏本 同じく時期がはまった中公新書の一冊としては、20世紀最大の思想家の一人を扱った『ハンナ・アーレント』矢野久美子・著)もありました。先立って公開された映画「ハンナ・アーレント」が話題となったこともあってか、いろんな書店でランキング入りしていました。とはいえ、こちらはオーソドックスなつくりで、「これぞ教養!」という感じの書籍でしたが。

菊地 本書はタイトルや帯コピーからも中公新書っぽくない一面が垣間見えます。例えば他の媒体であれば、「人口減少」という表現をした現象を、本書はずばり『地方消滅』としている。ある意味、読者に恐怖感を与えるような本作りで、これは、同じようなニュアンスでかつてもてはやされた「限界集落」などと比べても、より広範囲に刺さるコピーです。また、本書の中で行き着く未来の一つとして、一貫して提示されているものに「極点社会」というフレーズがあって、この「極点社会」をタイトルにしてもよかったのでは? とも思いましたが、その一歩手前で止めて「地方消滅」としたところに、本書を売るんだ、より多くの人に手に取ってもらうんだ、という作り手側の強い意志みたいなものを感じました。

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896市町村が消滅するというデータの衝撃

 新書のタイトルは、編集者にとって、売るためにいちばん力を入れるところだからね。本の内容から多少離れても、読者にとって興味を持ちやすいフレーズであればそちらを採用するということもありうる。しかし中公新書は、ニュース解説的な書籍においてもそういうタイトルのつけ方はしないので、そういう意味でも、本書は非常に珍しい例と言えるだろうね。

藏本 オビを見ても、編集部の意気込みみたいなものが感じられます。「896の市町村が消える」ことはもはや前提であって、「消える前に何をすべきか」と問いかけている。普通なら、「896の市町村が消える?」などとするところかなと思うんですが、「消える」ことは既に周知の事実であり、本書ではその先の提案をしているんですよ、と強く打ち出している点が興味深い。

菊地 それくらい、5月8日の人口創生会議による記者会見や、その2日後に発売された「中央公論」6月号の「消滅可能性都市リスト」は衝撃的だったということでしょう。東京に住むわれわれよりも、地方に暮らし、働いている人たちにとってより衝撃的だったという感覚の差はわからない部分もあるのですが、このタイトルの本が、今これだけ売れているという実績から十分想像しうるのではないかと思います。

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藏本 「地方公務員必読の一冊」と言われるゆえんですよね。自分の住む市町村がどうなるのかということがすべて数字で示されていて、自分の問題として捉えることができるし、これからどうすべきかについても様々な視点が示されているわけですから。

 新書というのは都市圏がやはりよく売れます。すなわち通勤や出張のついでに読むというニーズが大きい媒体です。東京なら新宿や丸の内、大阪なら梅田でよく売れる。でもデータを見ると本書は全国で万遍なく売れています。一時的、あるいは局地的な話題ではなく、全国的に関心が高い本であるということを数字も示しています。

「社会減」という視点のリアル

菊地 人口減少の問題については、『里山資本主義』の著者である藻谷浩介さんもこれまで繰り返し発言してきていますし、本書にも2013年12月号の「中央公論」に掲載された増田さんと藻谷さんの対談が再録されていますが、これまで言われてきた人口減少というのは、基本的に人口減であり、つまり「自然減」が中心だったんですよね。日本という国の人間が減っていくという話です。しかし本書では、「社会減」、つまり都市部に人口が吸収されていくというところに重点が置かれている。ここにいる、僕も含めた編集者三人はみな地方出身者ですが、僕たちにとってすら「人口が減っていく」という自然減も「都市部に流れていく」という社会減のほうが感覚としてリアルなんですね。われわれも実際、地方から都市部に出てきたわけですから。そういうことを考えると、人口の「自然減」よりも人口流出による「社会減」から「地方消滅」にいたると説く本書のほうが、日本人が抱いている危機感に対して、より刺さる本なんだなという気がしました。

 確かに『デフレの正体』『里山資本主義』を送り出している編集部としては、人口減少問題はおなじみのテーマです。でも、「社会減」への注目の仕方や、『デフレの正体』で扱われていた「生産年齢人口の減少」というところからさらに進んで、高齢者も減る、あるいは都市流入の結果、東京もダメになるというあたりまで本書が踏み込んでいるのを読むと、問題がさらに一歩進んだ、症状がより悪化したんだなという思いがありますね。

藏本 増田さんと藻谷さんの対談の中に、東京の人口においても、00年から10年にかけて65歳未満は30万人減っているという話が出てきて、非常に驚きました。それから、若い女性の減少に注目している点、特に25~29歳の女性の未婚率が60パーセントを超えたというデータは衝撃でしたね。確かに、帰省して久しぶりに実家の近所を歩いていても、ほとんど子どもを見なくなりました。余談ですが、整骨院とおしゃれカフェがやたらと増えていました。いずれも年齢層は高め、単価も高くて、時間に余裕のある人をターゲットにした商品を提供するお店で、そういう状況を見るにつけ、本書はリアルな感覚が具体的なデータに落とし込まれているなあという印象を受けます。

 地方を車で移動していると健康食品の幟をよく見かけるんだけど、同じことなんだろうね。本書で「896の自治体がなくなりますよ」と言っている根拠は、20歳から39歳までの女性人口が5割以下に減少する市区町村が896あって、その自治体の人口が急激に減るという予測に基づいている。女性の活用という点については安倍政権でもテコ入れしたわけですが、いつも問われるのが、本気度がどれくらいなのかという点。本書でも第3章や第6章でそのアイデアについて豊富に語られているので読者にはぜひ確認してほしいんですが、ほとんどがマクロ的な政策で、実際にやるまでにはものすごく時間もエネルギーもかかる。今回の創生本部が作られた理由でもあるんですが、省庁の縦割りを打破しないと実現しないことばかりなんですね。それをエイヤッとやれるかどうかは総理大臣がどれくらい頑張るかにかかっている。これまで政治のお題目には上がるけれどもなかなか本気度が見えなかったこの問題に、安倍政権や著者の増田さんがどれくらい本気で取り組まれるか、今後も注目していきたいところですね。

藏本 本気度という意味では、本書の対談で須田善明女川町長が、「住民に対する説明会を延べ150回実施した」と発言しているところなどは、ただただ凄いと思いました。

 あらゆる自治体が、須田女川町長と同じくらいの本気度をもってこれから取り組んでいかなければいけない問題だということを表しているとも言えるでしょう。

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それぞれの地域が活きるための6つのモデル

菊地 この本の周辺には、僕がずっと企画として温めていた道州制というものがあります。一時は多くの政党が何らかの形で道州制の検討をマニフェストに入れていたものですが、増田さんは本書の中で明確に「道州制はだめだ、地方がそれぞれ生き生きしていかなければいけない」と言っています。須田女川町長の発言にも、「どの地域にも、その土地にしかないものが一つはあるはず」だから、それを売りにしてやっていきましょうとある。たとえば、島根県隠岐島のIターン奨励策などはさまざまなメディアでも取り上げられていますが(隠岐にIターンした方の自伝はこちら)、地方がそれぞれ、実際にどんな取り組みをしていけばよいのかをケーススタディ的に読める本にもなっていると思います。

藏本 第6章の「地域が活きる6モデル」も面白いですよ。これまでも地域デザイン関係の本では「産業開発型」がいちばんいいと言われてきたし、本書でも目指したいモデルの一つとしているわけですが、それ以外の5つのモデル、「産業誘致型」「ベッドタウン型」「学園都市型」「コンパクトシティ型」「公共財主導型」についても、既存のモデルでうまくいっているところはそのままやっていけばいいと言っている点などは、理想論だけではなく非常に現実的という感じがします。地域ごとの分業が求められていて、そのエリアがどのような役割を担うかを考えながら地域を設計していく必要があるという考え方は、解決策として非常に腑に落ちました。

菊地 6つのモデルの中でもメディアが取り上げやすく、読者の目にも触れる機会が多いのが「コンパクトシティ型」だと思います。郊外化を抑制して、いろんな施設や機能を都市の中心部に集積させるというやり方で、富山市などはすごく進んでいる一例でしょう。富山市都市整備部の資料がネット上でも簡単に閲覧できます。それを見ると、LRT(次世代路面電車)などもすでに走っている。鉄道好きの原さんとしてはいかがですか?

 いいんじゃないですか(笑)。富山ライトレールは使われなくなった貨物線を転用して路面電車に使っているんだけど、再開発の好例だよね。今日日、鉄道を新設するのはなかなか難しい。宇都宮とかが路面電車を新たに作ろうとしているけど、かなり時間がかかっているしね。本書にはデマンドバスなども紹介されていますが、地方の活性化にとって乗り物というのは大きな鍵なんだよね。交通機関の整備は、地方の問題を解決する上で欠かせない重要ポイントになってくると思います。

菊地 地方活性化のためには、農林水産業を再生させる必要があるという点も本書では強く語られています。僕も『山形ガールズ農場!』(菜穂子・著)という本を担当して知ったのですが、彼女たちは近隣の耕作放棄地を借りて農業をやっているんですね。日本経済新聞が一面トップ記事で報じた2014年9月10日付)とおり、耕作放棄地に対して課税強化し、貸した人に関しては固定資産税をゼロにするという政府方針が出されましたが、国の政策もそういう方向で動き出しているんだなという印象を強く持った報道でした。

藏本 本書の鼎談で小泉進次郎さんが、「政治や行政に関わる人間にとって、『こういった(地方消滅という)現実を履修しなかったら、わが町のことは語れませんよ』という、『必修科目』のようなもの」と発言しています。これこそが、本書の存在意義であり、売れている理由なのかなと思います。

小泉さんは福島での視察をずっと定期的に続けている数少ない政治家の一人ですが、「津波や原発事故は、もともと地域に存在した課題をより先鋭化させた出来事にほかなりません」と言っていて、この社会認識は福島をフィールドとする社会学者の開沼博さんによる「福島学構築プロジェクト」のものとも一致します。すなわち、津波や原発事故が起こってから問題が生まれた、というものではなく、もともとかなり弱っていたところに、大震災が起こったことによって一気に顕在化したというものです。大雪に見舞われた山梨でも同じような起こったように、コミュニティがない、近所のつながりがない、という問題が地方でも進んでいて、津波や大雪などの大災害を契機として一気に顕在化し、ピンチに陥るんだという問題意識はもっと共有されていいのではないでしょうか。

そういう意味でも本書は、地方の問題を網羅してコンパクトにまとめ、さらに必要なキーワードをカギカッコで提示して説明してくれる、非常に勉強になる一冊になっています。

地方発出版のブームへ

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菊地 この本を読んで現状を考えてみると、それほど明るい見通しは持てない気がしてしまいます。東京に暮らしていると、地方のことをどう考えればいいのかわからなくて、じゃあ、ふるさと納税でもしますか、みたいな感じになったり……。でも、出版社に勤める編集者としてどう考えるべきかというと、これははっきりしています。これから「地元バンザイ本」がたくさん出るぞ、「おらが町はすごい!」というキャンペーンが絶対始まるぞということです。JRデスティネーションキャンペーンや大河ドラマの選定に対して署名活動が行われるなど、先行例はいくつもありますが、今後は東京五輪の決定以上に、その地域の中で生死をかけた戦いが行われることは間違いないなと。弊社でも一駅ごとやより狭いエリアでウォーカーを出していますが、その先駆けになった「るるぶ練馬区」などは実は行政からお金をもらって作っているんですね。ちなみに2013年6月の千葉県鴨川市議会では、「5万部程度の制作で約1000万円以上の費用が必要」といった答弁が現実になされていて、出版社としては、「それくらいお金をもらえるならやってもいいのかな」という気持ちにもさせられます(笑)。まあ、そこまでは言わないにしても、弊社の新人物文庫が都道府県別「謎解き散歩」というシリーズを作ってものすごく売れているように、これからは地方本みたいな企画が雨後の竹の子のように出てくるんじゃないかと予想しています。

藏本 紀伊國屋書店福井店で1位になっているのが『福井の逆襲』(内池久貴・著/言視舎)という本だったりしますしね。

 最近では、Perfumeが表紙を飾った「泣ける! 広島県」というガイドブックが話題になりましたね。広島県が5万部作って全然足りずに増刷したとか。確かに、各地方が出版などのメディアを通じて「地元バンザイ」をやるだろうという予測はそのとおりだろうし、「恋するフォーチュンクッキー」を地方の県庁職員がみんなで踊るみたいなこともそうしたムーブメントの一つとして捉えることができるでしょう。メディアや出版、映像が、地方自治体単位でも手が届くほど安価に作れるようになってきたことも大きな要因の一つだと思います。「水曜どうでしょう」のような地方発バラエティやドラマ、ロコドル(ローカルアイドル)なども本当に多くなりましたから。

藏本 自分のアイデンティティーをコミュニティに還元する動きの一つの流れでもあるし、そういう流れにいろいろなものが組み合わさって話題になっている面もあると思います。

 それにしても、コミュニティ論というのは、新書ジャンルにおいて非常に人気が高いテーマだよね。『里山資本主義』ほど爆発するのは珍しいですが、『限界集落の真実』(山下祐介・著/ちくま新書)や『商店街はなぜ滅びるのか』(新雅史・著/光文社新書)は7刷8刷と安定的に売り伸ばしているし、『コミュニティを問いなおす』(広井良典・著/ちくま新書)などもずっと売れている。硬派なものでも地道に売れ続けています。

藏本 山崎亮さんの『コミュニティデザインの時代』(中公新書)などもそうですね。本書も中公新書のラインアップの中では、タイムリーなものとして注目されました。

菊地 実は新書という媒体自体も、地方とつながりがあるという言い方ができます。47都道府県のほとんどすべての地元出版社で新書を出しているといっても過言ではないんですよね。僕の地元である山形には「山形新書」があり、お隣の宮城には「仙台闊歩新書」があり、沖縄には「ボーダー新書」というレーベルがある。そういう意味では、地方発の新書を比較検討してみるのも面白いかなと思います。一度会社の経費ですべて買い集めてみるとか(笑)。

 そうだね。今度、特別企画でやってみましょうか。

今回の参加者

 角川oneテーマ21編集長。おかげさまで編集長3年目に入りました。これからもよろしくお願いいたします。注目の8月刊は『Youtubeで食べていく』(愛場大介・著/光文社新書)、世界には億単位で稼ぐ人もいるという動画投稿の世界ですが、書籍編集とはまるで流儀が違い勉強になります。ちなみに見てもらえるかどうかの境目は「90秒」だそうです。

菊地 角川oneテーマ21副編集長。同じ8月刊で気になったのは元東京都庁の土木専門家が著者だという『首都水没』(土屋信行・著/文春新書)。そして題目書名と同じ中公新書の『怨霊とは何か 菅原道真・平将門・崇徳院』(山田雄司・著)。いや、祟りで大雨が降るぞ!とかそういう話ではないんですけども。

藏本 角川oneテーマ21編集部員。夏休みに地元を歩いていて「いい天気やのに子ども全然遊んでへん」とショックを受けた方は、ぜひ今回の本をお勧めします。いま読み返したい一冊は、先日奇しくも亡くなられた理論経済学の大家・宇沢弘文先生による『社会的共通資本』(岩波新書)。社会にとって何が大切なのかを考えるヒントになる一冊です。