連載コンテンツ

新書座談会

自社以外のオススメの新書をピックアップして、ざっくばらんに語り合う「新書座談会」。今回は、2-3月刊の新書より、いま話題のAIについて、歴史から最新研究までわかりやすくまとめてある小林雅一さんによる『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』(講談社現代新書)(講談社現代新書)をピックアップ。将来、人間の仕事はAIに取って代わられてしまうのでしょうか。人間対コンピュータの対決として注目を集めた「将棋電王戦」の話も交えながら、新書編集部の3人が語ります。(構成・崎谷実穂)

今月の参加者紹介

 この「新書座談会」のテレビバージョン第2弾がDHCシアター(スカパー!プレミアムサービス547ch)にて放映中! 5月中はリピートたくさんあります(http://www.dhctheater.com/movie/12582)。髪が薄くなってきたのが気になりますが、まあ見てやってください!

菊地 お題目の『AIの衝撃』と同月刊『アホウドリを追った日本人 一攫千金の夢と南洋進出』(平岡昭利:著/岩波新書)が面白かったです。アホウドリの糞でできたという世界で3番目に小さい国家「ナウル共和国」を興味深く思って調べていたタイミングだったもので、個人的にとてもタイムリーな1冊でした。

藏本 3月刊では『おバカ大国オーストラリア』(沢木サニー祐二:著/中公新書ラクレ)が面白かったです。治安悪くても、粗野でも、それでもハッピーな方々。生き方、幸せな社会はそれぞれだと再認識しました。あと、見つづけていたアニメ「SHIROBAKO」が終わってしまいました。泣きました。トラブルとスケジュールと各部署の調整に追われる主人公に思い切り自己投影。モノづくり、コトづくりにかかわる方、ぜひBDを!

13-1

将棋電王戦、衝撃の結末

 今回取り上げる本は、講談社現代新書『AIの衝撃』です。最近なにかと話題になるAIについて、ここらで詳しく知っておくべきなのでは、ということで選びました。まず『AIの衝撃』の冒頭や第4章で大きく取り上げられている、将棋電王戦の話から始めたいと思います。

将棋電王戦とは、ドワンゴが主催するプロ棋士と将棋ソフトが対戦する将棋の棋戦です。僕もコンピュータ将棋とプロ棋士の歴史はずっと追っていて『ボナンザvs勝負脳』(保木邦仁 渡辺明:著)という本を担当したこともありました。そして、2015年のコンピュータ将棋の最前線の話題を追った『ドキュメント コンピュータ将棋』(松本博文:著)を担当したのが、藏本くん。

藏本 はい。以前この座談会では、松本博文さんの『ルポ 電王戦―人間vs. コンピュータの真実』(NHK出版新書)を取り上げたことがありました。( http://www.kadokawa.co.jp/one/serial/20146nhk.php )。そのご縁でお話をいただきまして、本を担当させていただきました。

 そして今年の3月から4月にかけて、通算4回目となる将棋電王戦「将棋電王戦FINAL」の五番勝負が行われていた。その最終局が、衝撃の結末だったと。

藏本 最終局の対局者であった阿久津主税八段が、対戦ソフトの「AWAKE」に対して、ソフトのミスを誘う手を指し、誘導された悪手をソフトが指した結果、開発者の巨瀬さんが投了してしまったんです。21手での結末。結果、電王戦FINALは3勝2敗でプロ棋士側が勝利しました。

菊地 普通、将棋は終局まで平均して115手ほどかかる、と言われてるんじゃなかったですか。21手で終わるって、それ、どういう終わり方だったんですか?

 何手か先にソフト側が決定的に不利になるんだけど、それが読めずに目先の得をとった手を指してしまう手だったんだよね。

菊地 へー。ソフト側に「読めない」なんていう手があったんだ。

藏本 ある種のプログラムの不具合というか、人間であれば悪手とわかる手なんですが、コンピュータ将棋ではその手を高く評価してしまい、短い時間の思考ではそれを選択してしまう、そういう癖があるんです。これは他の強いコンピュータ将棋ソフトの多くで抱えている問題です。そして、そういう局面に誘われたら非常に悪い局面になってしまうということが、直前に行われたアマチュア棋士とAWAKEとの対戦で公になっていました(阿久津八段自身は、事前研究でその手筋を発見されています)。でもいまの将棋電王戦だと、対局の前から対戦相手にソフトを貸し出し、それ以降はソフトを改善できないというルールがあるんです。AWAKEの開発者・巨瀬さんの心境は複雑だったと思います。もちろん、その手を指したからって絶対に人間が勝つなんてことはなくて、勝ちの局面に持っていくためにはプロ棋士とはいわずとも、アマチュア最強レベルの棋力が必要なんですが……。

 第1回電王戦の「ボンクラーズ」との一戦でも、故・米長邦雄永世棋聖はソフトを撹乱するために、初手で人間同士の対局ではほとんど指されない手を指したけど、今回の電王戦FINALはさらにコンピュータ対策が激しかったね。第2局でも、永瀬拓矢六段が勝ちが見えた局面で、相手のバグを誘発する手を指して話題になった。

藏本 第3回までの電王戦で、プロ棋士側は負け越していました。今回こそは、絶対に負けられない、という思い。そして、これまで対コンピュータ対策をあまりせずに負けていたことが指摘されていたので、何よりも勝つことを意識して徹底的な対コンピュータ対策を取ったのでしょう。

 こういったソフトの穴をつく戦い方をすると、コンピュータ対プロ棋士というより、プログラマ対デバッガーの戦いのようだよね。

菊地 でもある意味、将棋って戦法のバグとそのデバッガーの戦いとも言えません? どうすれば勝てる局面に持ち込めるかは、人間同士でもすごく研究しますし。本質的には変わっていないような気もしますけど。

 なるほど、確かにそうかもしれない。とまあ、電王戦をきっかけにして、将棋という知能ゲームでも人間を凌駕する力をコンピュータソフトがもっているということがわかり、AIに注目が集まっているということです。

13-2

これさえ読めば、AIの話題にはついていける

菊地 『AIの衝撃』の著者の小林雅一さんは、2013年に『クラウドからAIへ』(朝日新書〉という新書を出していますよね。今回の『AIの衝撃』は、その『クラウドからAIへ』に比べるとずいぶん入門的に書かれているなと感じました。あと、「はじめに」の1行目で「AI(人工知能)」と書いているほかは、すべて「AI」と表記しています。タイトルも『人工知能の衝撃』ではなく、『AIの衝撃』。AIというものが、社会にある程度浸透したという作り手側の判断を垣間見るようです。

 本書は構成が親切だよね。第1章はAIの最前線、第2章はAIの仕組みと歴史、第3章が産業面への影響、第4章がこれからの課題と、この本を読めばAIに関する一通りの知識が得られるようになっている。でもある程度、AIについての基礎知識があることが前提になってる本でもあって、そもそもAIとはなんぞやという部分にはあまりページ数が割かれていない。『AIの衝撃』が難しかったという人には、『東大准教授に教わる「人工知能って、そんなことまでできるんですか?」』(松尾豊・塩野誠:著/KADOKAWA)をおすすめします。こちらはもっとやさしい内容になっているので。

藏本 レーベルの話をすると、もともと講談社現代新書って、岩波新書、中公新書と並んで、新書の御三家と呼ばれていて、教養もの、学問の入門書として強みがあります。なかでも講談社現代新書は、理系のテーマをよく扱う傾向があると僕は思っています。『SFを実現する 3Dプリンタの想像力』(田中浩也:著)など、トレンドとなっている新しい技術も早く取り上げている。だからこそ、いま人工知能の問題意識をぶつける本書を出すのは、講談社現代新書らしいなと思いました。

菊地 時流を捉えているってことかなあ。やっぱりいま、AIについての関心は全体的に高まってるってことでしょう。今年の1にはNHKスペシャルで「NEXT WORLD」という最先端テクノロジーを紹介する番組を5夜にわたって放送されましたよね。その第1回で人工知能の例としてよく出てくるIBMの質疑応答システム「Watson」や犯罪の起こりそうなポイントを人工知能で予測するといった例を取り上げていた。これはけっこう話題になりました。

 NHKは最近、AIをテーマにした番組をよく放送してるよね。NHKのBS1「メディアの明日」という番組では、AIによって新聞記事を自動生成するという試みを紹介していました。もう、人間が書いた記事に比べても遜色ないクオリティの記事がつくれるんだとか。そんな時代がきているのか、と驚いたな。

AIは、創作も課題設定もできる

菊地 僕が担当した『アルゴリズムが世界を支配する』(クリストファー・スタイナー:著、永峰涼:訳)という翻訳書では、楽曲を分析して、ヒットの見込みがあるかどうかを判定するアルゴリズムが紹介されています。そのアルゴリズムがノラ・ジョーンズのアルバムのヒットを予知していた、というエピソードは印象的だったので帯にも使いました。

 『AIの衝撃』にもそのエピソードが使われているね。それに関連して、コンピュータが作曲したオペラが、それと知らずに上演されたときは絶賛されたのに、コンピュータがつくったと明かしたら酷評されたというエピソードも載っている。

13-3

菊地 ほかにも、あらすじ作成をサポートする小説執筆の支援ソフト「ものがたりソフト」を小説家の中村航さんと芝浦工業大学が開発したんですよね。それを使用し、中村航さんと中田永一さんによる共著『僕は小説が書けない』という小説は弊社から出版されています。

 人間とコンピュータを分ける要素だと言われていた創作の分野にも、いまやコンピュータが進出しているわけだ。

藏本 そして僕が『AIの衝撃』を読んで一番驚いたのは、問題を設定する能力がすでにAIに備わっているという箇所でした。ということは、人間にしかできないと思われていた答えを出すために問いを立てる仕事も、コンピュータに取って代わられる日が近いということです。

菊地 「NEXT WORLD」では、アメリカの弁護士事務所で、AIがかなり活躍しているということを紹介していたよね。判例を検索して探してくるだけでなく、提案などのもう少し進んだ仕事もできるようになりつつあると。

 『AIの衝撃』に、今後10〜20年以内にコンピュータやロボットに仕事を「奪われそうな」職種トップ10と、「奪われそうにない」職種トップ10が載っています。ライター・作家は奪われる確率が3.8%と、「奪われそうにない」職種の7位ですが、さて、編集者はいかに(笑)。

藏本 自動化できそうな仕事は、これから機械にどんどん代わっていくでしょうね。コンピュータががんばればがんばるほど、人間の居場所はなくなってしまいそうです。

AIをかいくぐって生きるか、うまくのっかるか

 AIに対してはいま、肯定・否定含めて、いろいろな意見が出ています。例えば、ドワンゴの川上量生会長は、昨年の11月末にドワンゴ人工知能研究所を設立し、「人工知能でできないことを知るためにも、人工知能の研究が必要だと思った」と言っていました。あと、東浩紀さんは『弱いつながり』(幻冬舎)で意識的に旅行などに行き、ウェブサービスのレコメンドの読みを外すようなことが必要だと言っています。そうしないと、人間として変化が起こらず、新しい知見を得られにくいと。こう聞くと、いかにビッグデータ・AI的なパターンをかいくぐって生きるか、ということがこれからの時代のキーワードなのかなと思えてきますね。

藏本 私がいま編集している本(8月ごろ出版予定)にも、偶然性をいかに信じられるかが、これからの時代の人間らしさにつながっていくという話が出ています。

13-4

 まあ、世の中がアルゴリズムに支配されていくのは仕方ないとして、それをかいくぐって生きることが正しいかどうかはわからないよね。

藏本 乗っかっていったほうが、楽に生きられるかもしれないですしね(笑)。さて、最後に将棋電王戦の話をもう一つしたいと思います。電王戦FINALの記者会見で、ある記者が「将棋プログラムはAIですか?」と質問をしたんです。

 ほう。

藏本 そのとき、ソフトの開発者の皆さんは「AIではない、将棋を指すだけだから」といった返答をしたんですね。でも、『ドキュメント コンピュータ将棋』に載っている、将棋ソフト「やねうら王」の開発者の磯崎元洋さんの発言は少し違うことを示唆しています。それは、将棋ソフト開発にもよく使われている、コンピュータチェスの探索プログラム「ストックフィッシュ」についての発言です。ストックフィッシュは、オープンソースとしてたくさんの人が改良を重ねているのですが、その中で、同じ動作に対しチェス固有の処理とチェス以外でも使える処理がある場合、後者を採用し、前者を消していくそうです。つまり、もはやチェスだけのプログラムではなくなっている。磯崎さんはそのコードを見たとき、ストックフィッシュの開発者は、知能、もっと言えば人間をつくろうとしているんだと思った、と言っています。

菊地 チェスの思考プログラムを突き詰めると、人間の思考プログラムにもなるんじゃないか、と。

 たしかにIBMのWatsonも、最初はクイズに答えるプログラムとして開発されたんだよね。それがいまでは、銀行のコールセンターに活用されるところまで来ている。汎用性を高めていけば、そういうこともあるかもね。

藏本 そもそもコンピュータの歴史は、コンピュータチェスの歴史でもあるんですよね。「コンピュータの父」「人工知能の父」と呼ばれるアラン・チューリング(映画『イミテーション・ゲーム』の主人公)は、ハードとしてのコンピュータが作られる前から、チェスのプログラムを紙に書いていたそうです。電王戦は人間とコンピュータについて様々な事件が起こって議論を提起しましたが、それらは他の分野でも起こりうる問題でした。

これからの本格的なAIの時代は、将棋プログラムが、すなわち日本の開発者たちが切り拓いてくれるのではないでしょうか。