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新書座談会

自社以外のオススメの新書について、ざっくばらんに語り合う「新書座談会」。今回は4月刊の新書から、広島カープの菊池涼介選手による『二塁手革命』を取り上げます。なぜいまカープ選手の本が売れているのか。なぜあえて「二塁手」をタイトルに持ってきたのか。その、背景や内容を掘り下げていきます。(構成・崎谷実穂)

今回のメンバー

 角川新書編集長。先日、実家に帰った際に野球のグローブを持って帰ってきました。今年は友達の草野球チームに行ってみようかなと思うところです。この新書座談会のテレビ版の第2回がyoutubeにもアップされていますので、ぜひご覧ください(https://www.youtube.com/watch?v=HwPBx9Auayc)。

菊地 角川新書編集部員。野球といえば、横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智選手。スイングやら打球の軌道やら、その一連が美しくて惚れ惚れして見ています。あと、サッカーの若手選手ではサガン鳥栖の鎌田大地選手に期待。まだ行ったことのない、本拠地である佐賀県・ベストアメニティスタジアムに今年こそは……。

吉田 角川新書編集部員(金銭トレード?で新加入)。野球といえば、ニューヨーク・ヤンキースのファンなのでマー君の活躍を期待していますが、トロント・ブルージェイズのムネリンの明るさ、物おじしないアピールが大好きです。あと、サッカーは男女問わず、代表を応援。なでしこ、ワールドカップ連覇目指して、頑張れ!

藏本 角川新書編集部員。カープファンですが、もっとも燃えて試合を観ていたのは1996年です(3番前田4番江藤5番金本の時代)。六大学野球も好きで、東大の95試合ぶりの勝利をスタンドで目撃しました。

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冒頭には写真集。技術論とファンへのサービスを兼ね備えた一冊

 社内的なことなんですけど、2月にKADOKAWAの四つあった新書レーベル(角川oneテーマ21、角川SSC新書、アスキー新書、メディアファクトリー新書)を統合して「角川新書」というブランドに生まれ変わりました。その結果、編集部も一つの所帯になることになりまして、人が増えました。今回はこれまで角川SSC新書編集部で新書を作ってこられた吉田さんをお迎えして座談会を進めます。

吉田さんは新書編集は長いですよね?

吉田 はい、2007年10月の「角川SSC新書」の立ち上げからなので、新書の編集は7年半くらいやっています。

 という、KADOKAWAの中でも1位、2位を争う新書編集歴の吉田さんも加わりますますパワーアップした角川新書編集部にご期待ください。

さて、さっそく今回のお題なんですが、今回は、広島カープの若手、菊池涼介選手による『二塁手革命』です。菊地君、菊池選手は知ってるよね?

菊地 著者である菊池涼介は現在広島カープに入団して4年目の選手ですね。本のタイトル通り、ポジションはセカンドで、日米野球に出場する日本代表(侍ジャパン)にも選ばれています。とりわけ彼が有名になったのは、昨年11月に開催された日米野球での守備のファインプレーでしょうか。むずかしいグラブトス(※)によって内野安打になるかと思われた打球をアウトにし、メジャーの選手を驚かせた。守備だけ見ても、メジャーに行っても5本の指に入るのではないかと言われて、すごく話題になったんです。もちろん脚も速くて、打撃もすばらしいんですけどね。
※内野ゴロを捕球後、グラブに捕球したまま左手で塁に送球する内野守備の呼称

吉田 これまでの野球やサッカーに関連する新書って、基本的には技術論か組織・リーダーシップ論、あとは観戦術について書かれたものが多かったんですよね。

 そうですね。スポーツ本は大別して選手本と監督本の2種類があります。選手の本は、イチローの本などをイメージするとわかりやすいんですけど、どうやったら自分の力を引き出せるのかという、わりと自己啓発的な内容になりますよね。一方、チーム全体をマネジメントしている監督の本は、ビジネス書的になりやすい。

吉田 この本は技術論について説明しながらも、プライベートやこれまで培ってきたことを、いわゆる”カープ女子”も含めた新しい広島ファンに向けて伝えているところが、これまでにない切り口だなと思いました。

 一問一答コーナーで、好きな女性のタイプまで書かれているのは新しいですよね(笑)。

藏本 ファンにお願いしたいことが書かれているのも、生々しくておもしろかったです。

菊地 特徴的なのは、冒頭にカラーの口絵16ページがついていること。こういうのを僕らは「イントロ」と呼んでますけど、菊池涼介ファンにできるだけ多くの写真を見てもらいたいという意図を感じるし、写真に添えられたテキストがそれこそ本文へ導入になっている。

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吉田 しかも口絵の最後には、サインがついてますからね。ファン心をくすぐるつくりになっています。

藏本 一方でこの本は第1章から、ファインプレーと言われるプレーがどうやったらできるのか、についてけっこう野球の技術に踏み込む話をしています。そこから思ったのは、いまやこういう専門的な話でも一般読者がついてこれるようになったんだ、ということです。それは、インターネットによってすべての人が情報を手に入れられる時代になって、本で知らないシーンの話をされても、ネットでそのシーンやそのシーンについてのいろんな意見を簡単に見つけることができることも大きいかもしれません。

僕は中学の時に初めて野球本を読んだんですが、それが200勝投手の山田久志さんの『プロ野球 勝負強さの育て方』(PHP文庫)だったんです。それがわりとスポ根ストーリー+勝負師論だったので、野球本といえばストーリーが大事なのかと思っていたんですが、もう技術論でも読まれるんだなと。今後はあらゆるスポーツの本で、より専門性が求められていくのではないかと思っています。

カープ人気が高まるにつれ、カープ本も増えていく

菊地 あと、この本が出た背景には、この菊池涼介という選手だけでなく、ご存知の通り、広島カープという野球チームそのものの盛り上がりが大きく関係していますよね。先ほど吉田さんが使いましたけど、「カープ女子」なんていう言葉もあるくらいです。

藏本 2013年には、同じ光文社新書からカープのエース”マエケン”こと前田健太投手の『エースの覚悟』が出版されましたし、カープの選手の本は注目度が高いとふんで、出版されたのでしょう。

 少し前だと、ジャイアンツや阪神に比べるとカープはまだまだマイナーで、新書の編集者も本にするのは二の足を踏んでいたと思うんですよ。実際、KADOKAWAでもっとも売れたスポーツ本も、ノムサン(野村克也・元監督)の『巨人軍論』ですし。でも、最近では藏本くんが言った『エースの覚悟』もヒットしたし、新書じゃないけれど、ヤンキースからカープに戻ってきた黒田博樹投手の『決めて断つ』(ワニ文庫)も売れています。

菊地 野球本というくくりでなく、関連本だけを集めた「広島カープ本コーナー」を常設している書店もありますね。広島県内の書店じゃないのに、です。

 「アメトーーク!」でも、カープ好きを集めた「広島カープ芸人」の特集を2回もやってます。カープはもう、メディアにおいてはメジャーの仲間入りをしてるのかなと。

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藏本 選手の世代交代があって、若いイケメン選手たちがレギュラーになっているところが大きいんでしょうか。他にそういう球団はあまりないですよね。

菊地 12球団でいえば、日本ハムファイターズはあるよね。平均年齢30歳を超えるチームもあるなかで、うまく選手の入れ替わりが進んでいるのも、広島カープの成功要因のひとつでしょう。

 菊池選手も、まだ25歳ですもんね。新書の著者としても、非常に若い。かつては、野村克也や仰木彬など、ある程度年齢がいっていて、かつ読書家の教養人とされている人の話にニーズがあった。この『二塁手革命』のような本が出てくるということは、ずいぶん時代が変わったという感じがします。

吉田 あと守備論のほうがバッティング理論より、若い人が語っても納得する、共感を呼びやすいところがあるんじゃないかと思います。

藏本 『二塁手革命』は、帯のコピーもいいですよね。菊池涼介という選手を知らなかったとしても、「こんなにワクワクする選手 見たことない!!」と書かれると、そういう選手がいるんだ、どういう人なんだろう? と興味をもてます。

 内容もわかりやすいし、駅ナカの本屋さんなんかで売れそうな本だと思います。いま、コンビニの書籍販売エリアがすごく大きくなってきているんですよね。そういうところに置かれても売れるだろうな、と。これから新書のあり方も、売り場やそこに立ち寄る人の傾向によって、変わってくるのでしょう。

脇役を掘り下げることの醍醐味

菊地 「二塁手」という切り口も、けっこう新書向きじゃないかと思います。二塁手に関する本はシカゴ・ホワイトソックスで活躍した井口資仁選手が『二塁手論―現代野球で最も複雑で難しいポジション』(幻冬舎新書)という本を書いているんですよね。あと、PHP研究所から『遊撃手論』(矢崎良一・著)という本があって、こちらが売れたことを受けて、同じくPHP研究所から『2番打者論』(赤坂英一・著)が出ています。共通するのは、どれもピッチャーやキャッチャーを扱ったものに比べれば、脇役論だということ。

藏本 二塁手は、内野の中でもとりわけ脇役のポジションと考えられてますよね。少年野球や草野球だと投げる距離も少ないし、わりと野球の初心者が務めることも多いんですが、一定以上のレベルの野球では、すごく動きが複雑で野球をよく知らないとできないポジション、という認識になる。だからこそ、いぶし銀的な熟練の技が問われる通好みのポジションになります。

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 サブ的な役割だからこそ、そこに職人的な哲学や技術があるという考えかただよね。そういう観点でいうと、2001年に講談社現代新書の『ゴールキーパー論』(増島みどり・著)が出たときは「おっ」と思いました。いわゆる教養三大新書のなかから、そういうスポーツものが出てきたことにも驚いたし、ゴールキーパーを主役に持ってくるという味わい深さが新鮮だなと。後方で守りに徹する役割を掘り下げるおもしろさは、二塁手の役割を掘り下げていくことと共通するものがある。こういうテーマは、書籍に向いている。

菊地 新書のメイン読者である40代、50代の働く男性にとって、こういった縁の下の力持ちの活躍に光をあてたものは、読んでいて「プロジェクトX」的なカタルシスがあるのかもしれません。

吉田 玄人好みですよね。『二塁手革命』では、身体が小さいからこそ、きめ細かい俊敏なプレーができるということについて、1章分が割かれています。こういうところも、日本人にとっては共感を呼びやすいんじゃないでしょうか。

 読み物って、強い人がいかに強いかという強さの内実論は実はあまり受けないんですよね。やっぱり弱者の戦略の奥深さに興味が集まる。世の中は、圧倒的に弱者が多いので。そういう意味では、菊池選手がベストなパフォーマンスをするために、小さい準備を積み重ねたり、日々のプレーを細かく反省して改善し、独自のプレースタイルを確立しているというところは、『二塁手革命』の読みどころだと思います。

菊地 販売という面から見ると、日本のプロ野球は、クライマックスシリーズがあって、勝ち残れば、日本シリーズもある。販売機会が、発売直後に加えてあと2回あるわけですよね。カープ人気もこれからまだまだ続くでしょうし、メディアに取り上げられる機会もあるでしょう。売れていくチャンスが何回もあるというのは、スポーツ本のある種の醍醐味だと思います。

 チームや選手が好調だと、関連した本の売れ行きも好調になる。カープは出遅れてはいますが、地力は間違いなくあるチーム。そういう意味では、今年は『二塁手革命』にとっても、カープファンにとっても、楽しみな1年になるんじゃないでしょうか。

(了)