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新書座談会

自社以外のオススメの新書をピックアップしてざっくばらんに語り合う「新書座談会」。2015年6月刊からはTVドラマ『ナポレオンの村』(TBS系)の原案本でもある、高野誠鮮さんによる『ローマ法王に米を食べさせた男』(講談社+α新書)を取り上げます。これは、過疎の村を年間予算わずか60万円で救うという“ミッション・インポッシブル”を可能にした著者の奮闘記。かつての著者と同じく地方出身&都会で働く編集部員たちは、本書をどう読んだのでしょうか。(構成・大高志帆)

今回のメンバー

 角川新書編集長。せっかくたくさん刊行されていますので戦後70年本をコツコツ読んでいますが、6月刊の中公新書『李光洙――韓国近代文学の祖と「親日」の烙印』は(著:波田野節子)は衝撃ですね。ノンフィクション単行本として出されがちな題材ですが、新書にして末永く世に問おうとする編集部の姿勢に感銘をうけます。

菊地 角川新書編集部員。僕が一番苦手な季節、夏が到来しました。会社に来るだけでもう帰りたいです。お題目以外の6月刊では『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(著:ラリー遠田/コア新書)。ここでも、オタクとヤンキーの話です。

藏本 角川新書編集部員。夏の楽しみは下鴨神社の古本市と大文字。でも8月16日に日帰りです。6月刊のオススメは広井良典先生の『ポスト資本主義』(岩波新書)。非・成長時代のビジョンを知る上で必読の一冊です。

辻森 角川新書編集部員。角川SSC新書を編集していましたが、新書レーベル統合で4月に異動してきました。5月刊の角川新書『知らないと恥をかく世界の大問題6』(著:池上彰)が好評発売中。6月刊のオススメは、『ほったらかし投資術』(著:山崎元 水瀬ケンイチ/朝日新書)。全面改訂版ですが、変わらずわかりやすい! シンプルさが際立っています。

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メディアミックス化する新書

 今回は、4月から角川新書編集部に異動された辻森さんをお迎えしての座談会です。

辻森 新入りです。よろしくお願いします!

 累計140万部の池上彰さんの『知らないと恥をかく世界の大問題』シリーズを筆頭に、ベストセラーを担当されてきた強力な助っ人が入ってきました。さらに公式ウェブサイトもリニューアル。ますますがんばっていかないと、と思っています。さて、今回取り上げる本は、講談社+α新書から出ている『ローマ法王に米を食べさせた男』です。

菊地 この本は僕が推薦した本です。現在TBS系で放送中のドラマ『ナポレオンの村』の原案本ですね。主演が唐沢寿明。著者が石川県羽咋市の職員として同市・神子原地区の過疎化を食い止めるプロジェクトに着手したときのエピソードを中心に描かれています。

 新書でメディアミックスという事例も多くなりました。成功例として一番に思い浮かぶのは、やっぱり新潮新書で出た磯田道史さんの『武士の家計簿 「加賀藩御算用者」の幕末維新』かな。

菊地 弊社の新書『「旭山動物園」革命 夢を実現した復活プロジェクト』(著:小菅正夫)も映画『旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ』の原案になりましたよね。主演は西田敏行。

 こういったノンフィクションがドラマや映画になるというのは、今の視聴者が一人の人物にフォーカスした小説的なものだけじゃなく、地域にフォーカスしたものや、群像劇のようなものにも興味を持っていることの表れかもしれないね。

菊地 そういった意味で言うと、“単行本からの新書化”も、今後増えていく流れなんじゃないかと思いますよ。実はこの本って2012年にまず単行本が出ているんですよね。その単行本に第6章を加筆して今回、新書化。ドラマ化のタイミングで単行本から安価な新書にして刊行した、と。こういう発売から時間が経過した単行本を新書にするのってポプラ新書とかマガジンハウスの新書サイズのレーベルでもよく見られますね。

藏本 本筋とズレちゃいますけど、「新書化」って、読者の方にはわかりにくい表現みたいですね。「新書=新しい本=新刊」と思っている人が結構いるみたいで、編集部にも「既刊本が新書ってどういうこと? 新書って新しいことが書いてあるんでしょ? 書き下ろしじゃないの」っていう問い合わせがたまにあったりします。

 あぁ。「新書サイズ」っていう判型なんだけど、それは出版社都合の名前だもんね。岩波書店の吉野源三郎が「新書」って名前を付けたからのはずなんだけど……その経緯についてはよく知らないので、みんなの宿題にして調べましょうか。もしくは、「誰か知ってる人教えてください」ということで。

藏本 ただ、本書は文庫にすればいいのでは、と思ったのですが。あえて新書にした意味は、どういう意図なんでしょうか。

菊地 「新書大賞2014」を受賞して40万部超のベストセラーになっている『里山資本主義』(著:藻谷浩介 NHK広島取材班)の流れなんじゃないかな。小説中心の文庫棚のお客さんより、新書棚によく足を運ぶお客さんの方がより興味を持つだろう、と判断したんだと思うよ。

藏本 たしかに「新書大賞2015」を受賞したのは中公新書の『地方消滅』(編著:増田寛也)で、2年連続“地域活性”をテーマにした作品が受賞してますしね。新書において、“地域活性”というテーマが売れる、そういう読みがあっての新書化なんですね。

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公務員による「プロジェクトX」

 では内容の話に移りましょうか。辻森さん、この本はどう読みました?

辻森 一見地方の公務員の話ではあるんですが、都会に住む自分にも関係のある話だな、というのが第一感です。僕も含め、今は都会で暮らしている地方出身者も、地元には親がいたり、家があったり、お墓があったりするわけじゃないですか。この本を通じて地方が抱える問題を学ぶこともできるし、そして一般企業に勤めるビジネスマンが仕事に生かせる部分もある。さらに、ドラマ化されただけあって、物語的にも楽しく読める。読者の間口が広い本ですよね。

 「稟議書は書きません」「報告もしません」とか、著者が働くスタイルは僕たちがよくイメージする“公務員的”なものとは全く違うんだけど、だからこそ一般のビジネスマンにも生かせるヒントがたくさんある。文章のテンポがいいから、あっという間に読めるよね。

菊地 著者が“公務員的”じゃないのは、いわゆる“生え抜き”の公務員じゃない、というのも大きいと思うんですよね。

藏本 東京で放送作家をされていたんですよね。

菊地 そうそう。もともとは地元のお寺に生まれてるんだけど、東京に行って放送作家としてメディアの仕事に携わっている。都市部で大きな規模のビジネスやスピードの速いビジネスを体験した人が、そこで身につけたノウハウを、地方に帰って還元する形。地方で生きてきた人との軋轢はあれど、なんとか調整して、着実に成果を出してきたという。

 タイトルだけ見ると、“ローマ法王に米を食べさせる”ところまでのサクセス・ストーリーかと思いきや、その部分は実は本書の通過点にすぎなくて、まだ全体の半ばくらい。むしろその後の「外国人へのPRをどうするか」というステップが重要だったりする。薄い内容の本に大袈裟なタイトルをつけて“下駄を履かせる”ケースもあるけど、この本にはいい意味でタイトルに裏切られた。

辻森 一種の『プロジェクトX』ですよね。JAや農家の人たちとのやりとりって、本の中には数行しかでてこないんですけど、きっと大変だったんだろうなぁって思います。でも、そういう部分の苦労をことさらに語らないところに、この人のビジョンの大きさというか、器の大きさのようなものを感じました。生え抜きの公務員じゃないからこそ、革新的なことができたんだろうね。

藏本 でも、上司への恨み節というか、ダメ出しはかなり細かく書いてますよね(笑)。「ここまで書けるんだ!」と、そっちについても驚きました。

 まぁ、書かずにいられなかったんでしょう(笑)。

辻森 あと、メディアの大切さについても繰り返し語っていますよね。とはいっても、ただメディアにすり寄るのではなく、都会にターゲットを絞り込んだりして、すごく戦略的。そうやって巧みに情報の伝播効果を上げているところとか、書籍販売の視点からも考えさせられました。

菊地 公務員なのに、真逆の存在といってもいい広告代理店的、プロデューサー的な動きをしているのが面白いですよね。本文中にありますけど、「町おこしはマスコミ起こしだ」という発言のとおりだなと思いました。

辻森 帯の “スーパー公務員”っていうのは、実態は“すごく行動力のある公務員”ですよね。

藏本 たしかに、この呼び方だと“そつなくこなすスマートな人”をイメージしちゃいそうですね。

 そうそう。実際には、非常に地道な行動力が著者を支えてる。

藏本 それだけじゃなく、地元の売り出し方が明確に著者の中でビジュアル化されているから、それに賛同する人も現れたんだと思います。あと上司が「犯罪以外は全部責任を取る」って言う場面とか、すごく印象的でした。ね、原さん(笑)

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菊地 ただ誤解してはいけないのは、地元への強い愛情や積み重ねてきた信頼があるからこそのサクセス・ストーリー。しっかり読めば勘違いする人はいないと思うけど、単に強引なやり方で組織を変えようとしても、こんなふうにうまくはいくわけはない。あと、さらにいえば、これだけの軋轢が生まれれば、やってる側も途中で投げ出したくなる。そこを踏み止まれるのは愛情ゆえ、でしょう。実家のお寺も継いだんだと思うけど、僧侶として地域との関わりもあるようですしね。

辻森 とはいえ、この本で公務員のイメージが変わる人も多いんじゃないですか?

 たしかに民間は「この産業がダメなら業種替えしよう」っていう選択肢があるけど、公務員はどんなに過疎化が進んでも、住んでいる人の暮らしを向上させるミッションがある。その土地からは逃げられない仕事だよね。一般的に楽なイメージがあるけど、著者の行動は誰にでも真似できることじゃない。

菊地 そこは、お坊さんだからなのかもしれない(笑)。

辻森 たしかに、地元への愛が強いっていうのはあるかもしれないですね。

藏本 こういう人がたくさんいれば地方が元気になりますよね。でも、この人は60歳なんですよ。つまり、団塊世代には都会でビジネスを経験した人がたくさんいるけど、今はずっと地方に住み続けて、そこから出ない人も多いですよね。そう考えると、残念ながら今後も同じような成功例が続くとはかぎらないようにも思います。

 地域活性で成功しているのは、Iターンに成功した町だったりもするしね。

辻森 著者が「感動するより行動してほしい」って言ってるんですけど、この言葉もすごく響きました。ドラマ化されたら、きっといろんな地方から羽咋市に視察に行くと思うんですよ。でも、「こんなふうにすごかったです」って報告書を書いて終わりになっちゃうケースが多いですよね。お役所だからってことじゃなく、一般の会社にもよくある話じゃないですか。

 会社がつぶれかけていても、それまでの慣習に囚われる傾向はどこの組織にもあるよね。「たま駅長」で有名になった和歌山電鐵貴志川線も、昔の親会社、南海が廃止を検討したことがあった。ドキュメンタリー番組を見てたんだけど、JR九州の車両を手掛けて有名な水戸岡鋭治さが車両のモデルチェンジに画期的なアイデアを出していくんだけど、それを「前例がないから」って反対にあうという。

菊地 「現状がダメなんだから変えなきゃいけない」ってタイミングだとしても、そういう声が出ちゃうんですね。

 そう。それを、水戸岡さんが「過去にこだわってちゃいけない」と説得した。これを見たときも、なかなか変われない組織の体質を感じたけど、“斜陽”と言われて久しい出版界にも言えることだと感じた。「対岸の火事」じゃなく、「他山の石」にしていかなきゃいけない。

辻森 前例がないといえば、応募券! 本の内容の話じゃないんですが、帯にお米の応募券がついてるのって、すごく面白くないですか? この発想は新書にはないですよね。

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菊地 僕も思いました。神子原米は「魚沼産コシヒカリより高いお米」。って、ちょっと食べてみたいですよね(笑)。みんなで応募してみませんか?

 これだけいたら、誰か当たるかもしれないよね。じゃあ、その結果についても乞うご期待、ということで。

 

(了)