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新書座談会

自社以外のオススメの新書をピックアップして、ざっくばらんに語り合う「新書座談会」。今回は10月刊の新書から、三池純正さんの『大坂の陣 秀頼七将の実像』(洋泉社歴史新書)を取り上げます。2016年のNHK大河ドラマの「真田丸」に併せて、ぜひ!(構成・澤島優子)

今回の参加者

 角川新書編集長。中公新書の井上たかひこ『水中考古学』を今回取り上げたいと思っていましたが、堀さんの熱烈プッシュで『大坂の陣』となりました。『水中考古学』については次回取り上げます。

藏本 角川新書編集部員。川上徹也先生の『1行バカ売れ』のヒットは、先生の尽力もさることながら、営業の堀さんの素早いサポートがあってこそ。いつもありがとうございます。

 営業企画局 新書・ノンフィクション担当。迷いに迷った1冊で原編集長が了解してくれて助かりました!迷ったもう1点は新潮選書の橋本治『いつまでも若いと思うなよ』で内容に興味持ちましたが、ちょっと年齢的に早いかと思い好きなジャンルの歴史を選ばせてもらいました。ありがとうございます。

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いぶし銀の新書営業マン

 今回は5月から角川新書の営業を一手に担当してくださっている堀さんをお迎えしました。いぶし銀の営業マンとして有名な堀さんですが、まずは簡単に自己紹介を。

 よろしくお願いします。私のスタートは、1989年に入社した大陸書房でのビデオや写真集などの営業で、92年8月に倒産した後、中経出版に転職して、ビジネス書を中心に販売促進や取次担当などを経験しました。2008年12月に新人物往来社が中経出版のグループ会社になったときに営業担当として出向して歴史ものに触れるようになり、4年ほどでまた中経出版に戻り、角川グループの大合併を経て、現在のKADOKAWAに至るという激動の経歴になります(笑)。

 27年営業一筋! 素晴らしいです!

藏本 先ほど出た新人物往来社は、「歴史読本」という雑誌や「謎解き歴史散歩」という大ヒットシリーズを出していて、歴史ファンにはお馴染みの出版社ですが、その「歴史読本」が2015年秋号をもって休刊となり、これを惜しむ声もずいぶん聞かれました。

 もともと歴史が好きなので、新人物往来社では、「あ、この会社のこの本、読んだことがあるなあ」というところからはじまり、趣味と実益を兼ねた感じで仕事ができたかなあと思います。歴史の本は高価なものが多いので、会社の倉庫から取り寄せたり、誰かの資料本を借りたりして好きな本を自由に読めたのもありがたかったですね。

藏本 ガッツリ歴史ファンなんですね。

 本物の歴史ファンは古代史や幕末あたりを好む人が多いと聞きますが、私は戦国時代が好きですね。父親が大河ドラマや時代劇を観ていた影響かなと思うのですが。

藏本 堀さんに比べると僕も原さんもライトな歴史ファンになるのでしょうか。僕は幕末です。余談ですが、新選組にゆかりのある京都・壬生寺に置かれている「訪問ノート」に書かれているメッセージや絵は、20年前ぐらいのものはほとんどが「るろうに剣心」(和月伸宏)だったんですが、ここ10年は「銀魂」(空知英秋)。「少年ジャンプ」がある種の歴史観をつくっているんだなと思いました。余談ついでにいうと、弊社の専務の井上伸一郎は新撰組六番隊組長・井上源三郎の子孫筋に当たるのだそうです。

 映像やマンガがやはり入口になるんだろうね。マンガと言えば今年度うちから出した「日本の歴史」(角川まんが学習シリーズ 全15巻)がお陰様で大ヒットしています。

藏本 累計で120万部突破しました。

 今までの歴史漫画は図書館向けに作られていたため、頑丈な上製本で値段も高めだったのですが、リサーチを重ねた上で並製で軽い紙の安価な本にしたところ、非常に喜ばれて版を重ね、大ヒットにつながりました。監修に東京大学教授の山本博文先生を迎えられたという点も大きいと思う。

藏本 山本先生は、2014年に話題になった『歴史をつかむ技法』(新潮新書)の著者です。歴史漫画には最先端の東大流の「歴史の大きな流れをつかむ」工夫がふんだんに盛り込まれていて、担当編集者もとても勉強になったと言っていました。「東大流」というのは、単なる知識の詰め込みではなく、まず「歴史の大きな流れ」を学び、それによって歴史的事件の意味を知るということ。マンガのクオリティの高さもありますし、また僕らの時代とはだいぶ歴史の事実も更新されていて(1192つくろう鎌倉幕府でなく1185になっている、など)大人が読んでも面白くてためになります。

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信頼できるレーベルとは?

 前置きが長くなりましたが、今回は10月に洋泉社歴史新書から出た『大坂の陣 秀頼七将の実像』(三池純正:著)を取り上げます。堀さん推薦の歴史ものの一冊です。

藏本 2016年のNHK大河ドラマ「真田丸」の関連本が、単行本、新書、文庫を問わずたくさんある中で、本書をセレクトされた理由はなんですか?

 真田幸村や真田一族だけに焦点を当てたものではない点と、大坂の陣を知るうえで重要な七人の武将の実像がざっくり把握できる点がポイントです。もともと大坂の陣については謎があって、豊臣方についた武将のほとんどは牢人だし、豊臣家も全盛期に比べて資金力が乏しかった。徳川方が圧倒的に有利な中、なぜこの戦が始まったのか。そして、冬の陣と夏の陣、およそ一年におよぶ戦を豊臣方がどうして戦うことができたのか、そのあたりを知りたくて読んでみようと思いました。 あと、三池純正氏のあとがきに、「洋泉社編集部の本多秀臣氏……」とある本多氏は、数年前まで「歴史読本」の編集長だった方で、よく知っている人なんですね。この人が作った本ならちゃんとしたものだろうと信頼して選んだということもあります。

藏本 なるほど。洋泉社さんの新書は、データに基づいて日本の教育を論じた『教育格差が日本を没落させる』(福地誠:著)など、学者が書いているわけではないけれども、硬派でしっかりとした新書というイメージがあります。僕の好きな一冊は『サラリーマン漫画の戦後史』(真実一郎:著)で、名作漫画を通して、日本の戦後のサラリーマン像がどのように変わってきたかを考察するもので、非常に面白かったです。洋泉社さんには新書y、歴史新書y、カラー新書y、歴史新書などがあるようですが、この違い、堀さんはご存じですか?

 知り合いに聞いてみたところ、「洋泉社新書」ではなく「新書y」が正式なレーベル名のようです。「新書y」はビジネス・実用など歴史以外のテーマ、「歴史新書y」は表紙が黄緑(緑)ベース2色のもの、「歴史新書」は表紙が4色のものに分かれるとのこと。ただし、もともとの分類基準を知る人が少なくなり、最近では「歴史新書・表紙4色」を選ぶことが多いそうで、それぞれの違いについてはよくわかりませんでした。

藏本 なるほど。「謎解き歴史散歩」という人気シリーズの名前が先ほど出ましたが、洋泉社歴史新書にも、『思わず人に話したくなる群馬学』(県民学研究会:編)や『あなたの知らない秋田県の歴史』(山本博文:監修)などの都道府県シリーズがあって、地方の書店にしっかり置いてあるし、地元の人が一家に一冊置いておきたいような本です。ご当地ものや歴史ものに強いレーベルと言えると思います。

 本書の中味について言うと、非常に淡々と秀頼の七人の部下について書いてあって、最近の新書にありがちな、著者の想いやメッセージを存分に伝える本とは逆の、歴史が本当に好きな人に接しやすい一冊という印象を受けました。

 この中には、名前は聞いたことがあるけれど、詳しい人物像や他の人物との関係などを知らない人が三人くらいいました。言葉の使い方が的確で非常に読みやすいし、話を過度に大きく作っている感じもしない。資料を淡々とわかりやすく解説していて、小説よりもこういう本の方が私は好きです。

藏本 各項目の分量も多すぎず、言ってみれば、ウィキペディアより詳しく専門書ほど重くないというか、サクッと読んで世界観が学べるという感じに仕上がっている。大坂冬の陣のあとで、家康が「秀頼に四国を与えるので、大坂城を出よ」という和議の条件を出していたということも、僕は知らなかったので、「へええ」と思いました。

 飲み屋でのちょっとした薀蓄話の域は超えるくらいの内容といいますか(笑)。

藏本 テーマの切り口の点から言うと、大河ドラマの関連本というよりも、「大坂の陣から400年」に合わせた本だったのではないかという気がします。そういう意味でも、あまり真田本とは少し距離があるのがちょうどいい塩梅です。

大河ドラマと新書の関係

 NHK大河ドラマの関連書籍は、年々刊行点数が増える傾向にあります。近年、出版社のジャンルの壁がなくなってきて、どんな版元でも話題のニュースや出来事、メディアミックスに合わせた本をすばやく出す時代になってきました。各社の機動力が上がっていて、たとえば「イスラム国」が成立したときには、その半年後に新書が7冊出ましたが、今回の「真田丸」も同様です。角川新書からも『真田一族と幸村の城』(山名美和子:著)を9月に出しています。 大河ドラマ本はこれまでは11月頃に出されることが多かったのですが、最近は9月、10月と刊行時期を早めたり、テーマに対するアプローチも、真田丸そのものの謎に迫るもの、兄弟を東西別々のところに送り込んで一族の延命を図った真田家の思想をクローズアップするもの、あるいは豊臣、徳川といった戦国大名の生き様に焦点を当てるなど、各社しのぎを削っています。

 ゆかりの地ガイドやムックっぽいもの、「戦国武将に学ぶリーダーシップ」のような戦略論まで、今年はより多く出ている気がします。真田幸村(信繁)が歴史ファンの間でも上位にランクされる人気武将であること、「半沢直樹」で主演を務めた堺雅人が主役ということ、そのあたりの期待値も含めて、多くの版元が新たに参入してきたのでしょう。

藏本 幸村自体がそもそもずっと人気が高い人ですよね。関連する本は既にたくさん出ているので、その切り替えや文庫化なども含めて点数が増えている面もあると思います。あと、大阪や上田などゆかりの地が複数あって、観光ガイドなどが作りやすいということもあるのでしょう。

 これまでの大河ドラマにはたいてい原作があって、海外でも大ヒットした『徳川家康』も山岡荘八の小説が原作で、当時サラリーマンの共通言語と言われるほどの大ベストセラーになりました。『天と地と』(海音寺潮五郎)や『独眼竜正宗』(山岡荘八)などいずれも原作小説があり、出版社や書店はその原作本を売ればよかった。 ところが最近は、2004年の三谷幸喜「新選組!」や2010年「龍馬伝」(福田靖:脚本)など、オリジナル脚本で大河ドラマが作られることが多くなってきました。原作モノは、2008年の「篤姫」(田渕久美子:脚本)、2009年の「天地人」(火坂雅志:原作)あたりが最後でしょうか。

 「篤姫」は『天璋院篤姫』(宮尾登美子:著 講談社文庫)はじめ、関連本もバカ売れしましたね。夏場に人気が再燃して以降、異常なくらいの売れ方でした。

 2010年の「龍馬伝」以降は原作がない企画が続いていて、そして11年「江~姫たちの戦国~」(田渕久美子:脚本)、13年「八重の桜」(山本むつみ:脚本)、15年「花燃ゆ」(大島里美他:脚本)という、篤姫以降は、歴史の陰に埋もれた人物を発掘しようという方向性が出てきていています。

藏本 ここ10年ほど、知られざる人物に迫った歴史モノの人気が続いていますよね。2008年には、2万を超える兵による城攻めを、わずか3000人で守り切った『のぼうの城』(和田竜:著 小学館文庫)が話題となると同時に、実在した天文学者・渋川春海を主人公とした『天地明察』(冲方丁:著 角川文庫)の連載が開始しました。パチンコやゲームの影響もあったとは思いますが、前田慶次もこの時期に人気が再燃しています。

 主人公に関する情報が少ないため、関連書籍がドッと出るという現象が起こっている。このあたりから、大河ドラマ本への出版業界の取り組み方も変わってきたように思います。

真田「幸村」の謎

 真田家は歴史上メジャーな一族と言えますが、実は「真田丸」の主人公の真田信繁は、これまで「真田幸村」として知られてきた人物で、しかし「幸村」と呼ばれた史料は一つもないそうです。こういう点は新たな発見というか、新しい流れと言えるのでは?

 驚きでしたね。僕らは子供の頃から「真田十勇士」と言い、「真田幸村」と言ってきましたが、今では「幸村」のほうが少数派ですからね。

 三谷幸喜も、「真田丸」の脚本を書くにあたって、史料を取り寄せて読んだり、現地の資料館を訪ねたりしたけれど、なぜ「幸村」と呼ばれたのかわからなかったそうです。

藏本 肝心の「真田丸」についてはどうですか? 僕は、「真田丸」というものがあったことは知っていたけれど、具体的なことはほとんど知らなかったんですね。日本史は勉強していても、歴史の中の地理関係ってなかなか意識していなくて、恥ずかしながら石山本願寺が大坂にあったこと、それもいまの大坂城の位置にあったことは、最近ようやく知りました。

 本書には大坂冬の陣と夏の陣の布陣図が掲載されていて、真田丸も描かれているのですが、この2つの地図を比べてみると、夏の陣では大坂城の堀がことごとく埋められていて、もはや豊臣方が勝負にならなかったことがよくわかる。

 歴史の教科書やこれまで読んできたこととは違う内容も書かれていて、そういうのを読むと、また新しい関心も生まれてきますね。

 歴史小説や時代小説、あるいは教科書なども、後年否定された史料を基に書かれたものがあるでしょうし、書き手のある一点から見た歴史にならざるをえない面があると思います。例えば司馬遼太郎は、『坂の上の雲』や『殉死』(いずれも文春文庫)で乃木希典を愚将として描いていますが、そのレッテルが正しくないと考える人もいる。情報社会に生きる現代人のわれわれの方が、歴史をナチュラルな目で見られるのかもしれません。

 信繁はなぜ大坂の陣に参戦したのかというのも大きな謎です。高野山に蟄居させられてはいたけれど、そこで生きようと思えば生きられたし、兄に仕送りを懇願していたという記録もある。他の戦国武将たちも、徳川方についていれば、とか、あの戦に参戦しなければもっと長生きできたということがあったと思うんです。あの時代の男たちは、やはり「死に場所」を求めていたのでしょうか?

藏本 本書の「あとがき」に、秀頼は決して「淀君に操られる愚かな息子」ではなく、聡明で武士の心得もわきまた人物だった。だからこそ、家康も彼を恐れたし、その結果、豊臣家は滅亡することになってしまったという記述があって、これには考えさせられました。

 この手の本は、ドラマが始まる前か、スタートしたあたりで読んでおしまいになるものも多いと思うんですが、本書は七人の武将のセレクトもいいし、初心者にも、歴史にある程度詳しい人にも満足できるような内容になっていて、ドラマの終盤まで何度もくり返し読みたくなる、そこが強みだと思います。

メディアミックスというチャンス

 膨大な書籍の中から一冊の本を手に取って買ってもらうためには何かのきっかけが必要で、その大きな一つがメディアミックスです。大河ドラマや朝ドラなどが書籍を売る大きなチャンスであることは間違いありません。その中で大河ドラマは特殊で、1年間に50回放送するわけですが、その第1回放送の前にもう本が出ている。普通のドラマは3か月1クールで11回とすると、10回か11回あたりにノベライズが発売されますが、大河ドラマは扱っているものが歴史なのでオチが変わることは絶対にない。だから、本放送前に物語の最後までを解説した本やノベライズを出しても構わないわけです。まあ、50週も待てないという現代人のせっかちな欲求に応える面もあるでしょうが。

 昔はすでにある原作を読めば12月までのストーリーがすべてわかったわけですしね。今はそういうケースが少ないので、関連本はいつ出してもいいとも言えるし、後出しだと売れなくなるかも、という不安もある。刊行時期の見極めは難しい。

藏本 いちばん盛り上がっているときに、本屋さんにその本が置いてあるかどうかがすべてですからね。

 マーケティング的にはすでに結論が出ているんですが、こういったドラマ関連本は、一人につき一冊しか買わない。どんなにブームが盛り上がっても、すでに一冊買った人がもう一冊別の本を買ってくれて読み比べてくれる、というのは出す側の淡い期待でしかない。基本的には類書の中でいちばん目立つ一冊が買われるわけですから、各社工夫をするわけです。その点、「真田丸」関連本については決定版がないので、今のところ各社の条件は平等と言えそうです。

 いっぽうで大河ドラマ関連で爆発的に売れたものは、文庫、新書、ムックを問わず、ここ数年では見当たらないですね。総点数が多いこともありますが、本が買われなくなったという根本的な状況があるので各社勝ち負けはつけにくい。大河ドラマ自体について言えば、本を売るチャンスというよりも地域の復興という意味合いが大きいんですね。大河ドラマの舞台になるだけで観光客は増えるし、宿泊施設や資料館はどんどん儲かりますから。

 「八重の桜」の影響で会津の観光客が増えたり、長野のしなの鉄道でも、水戸岡鋭治デザインの観光列車「ろくもん」を走らせたり。「ろくもん」は真田幸村の「赤備え」をイメージした赤い車両に真田家家紋「六文銭」をデザインしていて、車内で信州産の素材を使った料理を食べることもできます。

藏本 上田市は少し前までは細田守監督のアニメ「『サマーウォーズ』の里」として売り出していたんですが、今は完全に真田推しになっています。7月に訪れた際には、駅降りてすぐに『戦国BASARA』(カプコン)のイラストをつかった案内がありました。このゲームでも真田幸村は大人気です。

 ご当地でのメディアミックスがうまくはまれば、普段の販売力の5倍くらい関連本も売れてくれるのですが……。

 『真田一族と幸村の城』も長野の売り上げが他よりも多いですね。観光客がお土産で買うのか地元の人が買ってくれているのか、そのあたりはどうなんでしょう。

 メディアミックスのチャンスを生かすには、どういう作品の関連本で、どこがその舞台になっているのかなど、地方やご当地の書店さんにも本の情報をきちんと届けることが大切です。それがうまくできれば、地域密着型の本屋さんは、その本をいい場所に置いて長く売り続けてくれますからね。