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新書座談会

今回のゲストは、この4月にポプラ新書の編集長に就任した木村やえさんです。
いつものように一冊の新書をとりあげるのではなく、レーベルの個性と編集長としての考え方を語ってもらいました。
お相手を務めさせていただいたのは角川新書編集長の原孝寿です。

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角川新書は「男子校」で、ポプラ新書は「女子高」?

 まずは木村さんのプロフィールを簡単に教えていただけますか。

木村 ポプラ社に入社して最初に配属されたのは文庫の編集部でした。
3年目からは児童向けの図鑑の編集などを担当するようになっていたんですが、2013年にポプラ新書を立ち上げることが決まったときに、編集部に合流することになったんです。児童書のほうでは、「子供に伝える日本現代史」というテーマで田原総一朗先生の担当をさせてもらっていたこともあったからですね。
キャリアは浅く、いろいろな面でまだまだなんですけど、この4月に編集長に就任しました。

 最近でいうと、ポプラ新書さんのヒット作はどのあたりになるんですか?

木村 部数的には『○に近い△を生きる』(鎌田實)『母という病』(岡田尊司)『世界史で読み解く現代ニュース』(池上彰、増田ユリヤ)などが上位になりますね。
女性向けの新書に好評なものが多いのもポプラ新書の特徴で、4月新刊の『未婚当然時代』(にらさわあきこ)なども動きがいいです。

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 ポプラ社さんというと、もともと児童書のイメージが強いですよね。
『それいけ!ズッコケ三人組』(那須正幹 作、前川かずお・高橋信也 絵)『かいけつゾロリ』(はらゆたか)『きかんしゃトーマス』といった作品群は馴染み深いし、うちの子も今まさにお世話になっています。

木村 そういうイメージを持っていだたけるのはありがたいですね。
ポプラ社の本で子供を育てているお母さんたちが、自分の問題や社会の問題に興味を持ったときにポプラ新書を手に取ってほしいな、という気持ちが強いんです。
自分自身の身近な問題として「母」や「家族」といったテーマの新書を読んでいただけたなら、次には社会問題、時事問題にも目を向けてもらいたい。そういう取っかかりになるような本もつくっていけたらいいなと思っています。
今、出ているものでいえば、たとえば『超少子化』(NHKスペシャル「私たちのこれから」取材班)『揺れる移民大国フランス』(増田ユリヤ)を読むことで、少子化が課題となっている日本が、他国の人を受け入れるという可能性を考えるきっかけになるようなこともやっていきたいですね。

 女性の方はポプラ新書に安心感をいだきやすいでしょうから、そのこと自体が武器になると思いますよ。

木村 新書の世界では、男性の購入者が7、8割になるのが通常のようですが、うちはそうともいえないんです。
『○に近い△を生きる』にしても、パブライン(紀伊國屋書店の販売情報)では、読者の半数以上が女性だというデータがあります。うちの特徴は、そのあたりにあるのかもしれませんね。

 そういうはっきりした傾向があるのは素晴らしいことですね。
角川新書の場合は新書マーケットに対してある程度、自然な対応をしてきたいという前提があるので、中高年の男性に手に取ってもらいやすいものが多くなっています。

木村 角川新書さんに対しては、エンタメを教養ゾーンに持ってくるのが見事だな、という印象があって、それが会社のカラーとマッチしているように感じます。
蛭子能収さんの『ひとりぼっちを笑うな』なんていうのはその典型的な例で、ああいうのを見ると、本当に嫉妬してしまいます(笑)。一見、男子たちが教室の後ろでふざけているようなんですけど、実はまじめにふざけていて、いい本になっているという。
角川新書はいい意味で「男子校」っぽいなって思います。それでいくと、ポプラ新書は「女子高」なのかな……。

「新」編集長の仕事とこれからの新書業界

木村 原さんが編集長になったのはいつ頃なんですか? それまでの編集長とは方針を変えるなど、何かご苦労はありましたか?

 前身となるoneテーマ21(1999年創刊)を立ち上げた前編集長の期間が長くて、僕が引き継いだのは3年半ほど前ですね。
当時からコストカットなど、目に見えない努力は続けてきましたが、それと同時に「攻めの方針転換」もやってきたつもりです。たとえば以前の表紙カバーでは、縦組みで小さめのタイトルが入っていましたが、見やすくしたいという狙いもあって、横組みの大きなタイトルにしたんです。
また、帯はシンプルにするのが新書の伝統のようになってたんですけど、著者のキャラクターや本の内容を、よりわかりやすく伝えられるようにしたかった。そういう考えがあったので、帯ではコストダウンはしないで、実験的な試みも続けてきたんです。タイトルの文字を縦組みから横組みに変えたことでは、帯の高さを3センチ上げられたので、大きくなった面積の中で、よりインパクトのあるものを作っていくことができるようになりました。
カバー関連でいえば、色の部分でのリニューアルを検討したこともあります。角川新書の特色のひとつとしては、決まった思想に染まらず是々非々であることが挙げられるので、そのことをメッセージとして示すには真っ白のカバーにするのもいいかな、と考えたんです。ただ、それに関していえば、他社さんとの兼ね合いなどもあって、今のところは手をつけていません。
ポプラ新書さんのカバーにある緑色はどうしてですか?

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木村 ポプラ社はもともと、子どもたちがポプラの樹のようにまっすぐにすくすく育ってほしいというところから興している会社なので、表紙カバーのデザインも、ポプラの葉っぱをイメージしたものになっているんです。
デザイナーの鈴木成一さんに相談して作っていただきましたが、「無機質ではなくやわらかく有機的なイメージにしたい」「人の鼓動が聴こえてくるようなものにしたい」といったところが会社としてのこだわりになっていました。

 今年3月に刊行された『キリスト教のリアル』(松谷信司)では、イベントもやられていましたよね(=出版記念感謝礼拝)。あのような試みは他にも考えていますか?

木村 ポプラ新書というレーベルのファンを増やしていきたい気持ちは強いので、そのためのイベントや情報発信はどんどんやっていこうと思っています。
出版業界の話ではないんですが、たとえば『北欧、暮らしの道具店』というネットショップがあります。展開方法がすごく上手で、フェイスブックでも30万人以上が「いいね!」をしてるんですね。「北欧」といっても北欧の商品だけを扱っているわけじゃないんですが、写真が良くて、ライフスタイルの提案のようになっている。女性スタッフが書かれているメルマガは、すごく親近感を持てるような内容になっているんです。上手にブランドをつくっているなって感じられるので、そういうやり方も参考にしながら展開していきたいですね。
リアルイベントでは、白河桃子さんの『専業主婦になりたい女たち』に絡めて、「主夫志望男子と働き女子のためのハッピーワークショップ」というカップリングイベントのようなものをやっているんですが、これが非常に好評なんです。リアルイベントとSNSを絡めたような発信は今後もしていきたいですね。もちろん、それぞれの企画がおもしろいものであることが大前提です。
……これからの目標としては100万部のヒットを出したいですね(笑)。

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 なかなか100万部が実現しない時代に入ってきましたからね。とはいえ、世の中には『火花』のような例もあるわけでして。『火花』が売れたことは他の作家さんの小説が売れることにもつながったように、まずは本屋さんに足を運んでもらうことが大切になります。
そういう意味でもこれからはジャンルやレーベルの垣根を超えていくことも必要かな、という気はしますね。
業界一致団結してミリオンを出せるようにするための土壌を作れていけたならいいですね。

木村 レーベルを超えたイベントなどもやっていきたいですね。

 まさにそうです。そのためには、これまで新書というジャンルを引っ張ってきてくれた新潮新書さんや文春新書さんとも連携できることがあるといいですよね。
何ができていけるかはわかりませんが、そういう試みも含めて、今後もよろしくお願いします。
今日は本当にありがとうございました。新書のこれからを考え直すうえでも勉強になりました。