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新書座談会

今回はゲストとして中公新書ラクレ編集長の黒田剛史さんをお招きいたしました。4月更新分のポプラ新書編集長の木村やえさんにご登場いただいた回のように、今回もレーベルの個性と編集長としてのお考えを伺いました。お相手を務めさせていただいたのは角川新書編集長の原孝寿、同編集部の菊地悟です。(構成:角川新書編集部)

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今回の参加者

 プロレスは好きなのですが引っ越しの際にサムライTVを解約して最近の事情に疎くなってきていたのですが、本編にも登場の三田佐代子著『プロレスという生き方』を拝読して思い蘇り、ニコニコ動画の「DDTプロレスアワー」を契約してしまいました。人に何か具体的行動を起こさせる本というのは凄いです!

菊地 中公新書ラクレの書名には男子的にカッコイイと思えるものが多いと以前から考えていました。『最強の国家権力・国税庁―あなたは監視されている』、『あらゆる領収書は経費で落とせる』(両書名ともに大村大次郎著)、『教師はサービス業です―学校が変わる「苦情対応術」』(関根眞一著)、いや、個人的にぐっとくる題名なのかもしれませんが。「あらゆる」ってフレーズ、いいなぁ。

黒田 プロレスの「ぷ」の字も知らなかった私が担当した本が、原編集長のようなアツいファンの胸に響いたなら本望です。他方、こちらはKADOKAWAさんの新刊『子どもが伸びる「声かけ」の正体』に目からウロコが落ちました。さっそく我が子に「声かけ」術を試したところ、息子から「急になんだよ、キモイよ」と言われて撃沈。著者の「ぬまっち」こと沼田晶弘先生のように常日頃の取り組みが大切なんだと痛感させられました。

「中公新書」と「中公新書ラクレ」

 今回は中公新書ラクレの黒田剛史編集長をお招きいたしました。2ヵ月連続でご登場願うのですが、1回目となる今回は中公新書ラクレの特長であるとか、今どのような本をつくられているとか、こだわりなどをお伺いできればと考えております。ひとまず、黒田さんの自己紹介をお願いしたいと思うんですけども、新卒で中央公論社に入社されたのですか?

黒田 そうです。読売の支援を受ける前の「旧社」の。

 「旧社」?

黒田 「旧社」「新社」っていう言い方しているんですけども。

菊地 読売新聞社の出資による中央公論新社の設立前、要は「中央公論社」として最後の新卒入社組ということなんですね。

黒田 その通りです。たぶん自分が定年退職するときには、もう周りが「新社」採用組ばっかりになるのかなとも思っていますけど。入社してまずは『世界の歴史』という全集を担当したんです。全集って、それこそ一家に一冊みたいな形で常備されていた古き良き時代があったんですけど、中公って昔から歴史全集あるいは名著ものの全集というのがすごく得意だったんですね。そういう読書人がこぞって全集を買うという時代の最後の最後みたいなところでそれに関わることができました。これを毎月一冊出さないと会社が潰れるぞってハッパをかけられて、血反吐を吐く思いで編集してましたね(笑)。

 御社の歴史ジャンルの作品といえば、頭に浮かぶのは作家の宮脇俊三さんが編集者として、それこそ『世界の歴史』の立ち上げに関わられたというエピソードです。

黒田 そうです。『世界の歴史』の旧版のほうですね。宮脇さんは著者が書いた文章もわかりづらければ、読みやすくリライトされたと聞いています。今、僕らが新書の編集作業としてやっていることの先駆け、という仕事をされた方なんですよね。

 時期的に直接、宮脇さんのお仕事を見る機会はなかったんですよね?

黒田 残念ながらそれはなかったですけど、ただ、先輩編集者たちから宮脇さんのお仕事ぶりについていろいろ伝え聞くことはありました。

 御社に入られると、やっぱりそういう薫陶を受けられるんですか?

黒田 そうですね。ほかにも粕谷一希さんとか安原顯さんとか。

菊地 安原さんが『マリ・クレール』副編集長の頃のお話ですよね。

黒田 そう、『マリ・クレール』で吉本ばななさんがデビューされたり、フランス現代思想なんかが今よりもずっと輝いていたような時代ですね。『世界の歴史』は3年くらい携わりました。その後に、雑誌の月刊『中央公論』に異動になったんです。そこでも2年ほどやりまして、次に中公新書ラクレ編集部ですね。

菊地 創刊の辞にありますけど、中公新書ラクレが創刊したのは2001年3月。当時は紺色のカバーでしたよね。

黒田 そうですね。僕が異動したのは創刊して一年経ったぐらい、だったでしょうか。このころは編集部4人という態勢でしたね。

 2006年に刊行された『世界の日本人ジョーク集』(著:早坂隆)は物凄いベストセラーになりましたよね。

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黒田 おかげさまで、その後に刊行した『続・世界の日本人ジョーク集』『100万人が笑った! 「世界のジョーク集」傑作選』等のシリーズ累計で100万部を超えました。

 意表を突かれたと言うか、老舗の中公さんからこうした「短期間で100万部に到達する作品」が出たのか!という思いは持ちました。当時はちょうど数多くの出版社が新書に新規参入した時代でしたけれど、当然、新規参入組はそれまで新書では扱わなかったような内容を、新書という新たな「箱」に入れて送り出したんですよね。そういった状況下で老舗である中公さんが、こうした作品でベストセラーをとるんだという、意外性というか、驚きを感じました。

黒田 弊社には先行レーベルとしての中公新書があったわけですね。岩波新書、講談社現代新書と「御三家」という言われ方もしていただくのですが、そこでKADOKAWAさんも含め、各社が新書という売場で、いろんな可能性を探るということだったと思うんですね。

菊地 レーベル名にある「ラクレ」ってどういう意味なんだろうなぁと思っていたんですけど、刊行の言葉の最終行、「鍵」という漢字に「ラ・クレ」とルビが振ってあるんですよね。

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黒田 そうなんです。「ラクレ」はフランス語で「鍵」という意味なんですよ。時代の扉を開く鍵を読者に提供したい、ということなんです。時代を問わない、本質的なことを提供するのは中公新書。一方で、よりタイムリーな、世相を切るような内容はこのラクレで、ということですね。読売新聞社のグループ入りしたこともありまして、時事性の高い内容を送り出す媒体としてラクレができ上がったという側面もあるんです。

 読売新聞グループ本社の代表取締役で同紙主筆の渡邉恒雄さんの本も出されてますもんね、ラクレで。

黒田 そうですね、『わが人生記―青春・政治・野球・大病』という。2005年に発売した作品ですけど、先日、重版したんですよ。

・菊地 それはすごい!

ラクレが目指すもの、ハイブリッドとしての特長

 黒田さんはその後、一度他社に転職されていらっしゃるんですよね?

黒田 ラクレ編集部に5年ぐらいいたときにご縁をいただきまして、新書業界を横移動したという感じなんですけど(笑)、光文社に移りました。光文社では2010年末まで働きましたね。

 光文社新書ではどんな作品を手掛けられたんでしょうか。

黒田 『東大合格高校盛衰史―60年間のランキングを分析する』とか『「言語技術」が日本のサッカーを変える』、『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』といったちょっと渋いのを出したりとか、割とニッチでマニアックな、そういうところにも市場があるということを学んで、いろんなバラエティを増やしたような時代だったですね。

菊地 中公新書とか中公新書ラクレに対して、光文社新書のほうがもうちょっと企画のバラエティが多様というイメージですよね。

黒田 中央公論新社ってやっぱり論壇とか文壇に代表されるような伝統的なイメージがすごく強かったので、今一つ踏み出せてなかったなという思いがあったんです。その中でもラクレは一歩踏み出そうって形ではあったんですけど、光文社新書でのいったん枠を全部取っ払った形で企画を出すっていう経験からは、たくさんのことを学びましたね。

 中央公論新社に戻られてからは編集長ですか。

黒田 編集長的な役割を果たしながら数年間過ごして、正式には2年ほど前から編集長という形です。光文社で経験してきたものを生かせるんじゃないかっていう思いがあるので、いろんなやり方試してみようという気持ちですね。

 ラクレのカラーの話にまた戻ってくるんですけれども、御社は『中央公論』という雑誌がやっぱり中心にあって、もう一方で中公新書があって、これは今の新書の全レーベル見渡しても、やっぱり教養新書の王道中の王道を守り続けてると言って過言じゃない。

黒田 そうですね。まさに保守本流という感じだと思います。

 王道といえばちくま新書や岩波新書も王道ですが、岩波新書の場合だとラインナップに「軟らかい」作品も多く入ってきますよね。

黒田 先日お亡くなりになった永六輔さんの『大往生』とかですよね。

 永さんの『大往生』はベストセラーであり、かつエポックメイキングな読み物でしたね。岩波新書は、中公新書と同じ「学問の入門書」ではあるんですが、エッセイ的な内容でアプローチするものが多い。幅広く読者対象を取っているという印象がありますね。

黒田 弟分のラクレから見たら、まさに「出来の良いお兄さん」のような感じです。

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菊地 中公新書ラクレが中公新書というだけでなく、他レーベル、他社の新書との差別化という意味で企画の方向性のようなものをどのように考えていらっしゃいますか?

黒田 会社からは「出来の良いお兄さん」に対して、「やんちゃ」にやっていいよ、っていうようにも言われてますけど、明確に言えるのは対象読者の年齢層はより下に、いわゆる現役世代の人たちに向けて発信していこうというは考えてやっていますね。

 僕は41歳でいわゆる団塊ジュニアなんですけど、たしかに一読者として中公新書ラクレを選ぶことも多いです。黒田さんがご担当された『プロレスという生き方 - 平成のリングの主役たち』(著:三田佐代子)も楽しく読ませていただきました。

黒田 ありがとうございます。できるだけ今まさに悩んでいるような人たちに向けて提起していきたいという思いはあります。変化のスピードが速い世の中でどういう能力を身に付けていけば乗り切れるのかとか、社会環境はどの方向に変化しているのかというようなことは、レーベルとしては発信していきたいなとは思っています。この路線でいうと、たとえば『教養としてのプログラミング講座』がその成功例ですね。また最近出した『人生を変える勇気』はアドラー心理学の第一人者・岸見一郎先生にズバリ悩み相談をご執筆いただきました。あと、世代としてもそうですし、選挙争点になったりもする教育に関するコンテンツは他のレーベルに比べて増やそうとしていますね。そこから、実際子育てしていく上でのお金の問題、節税の問題とか、そうした実用的なこととかは、『あらゆる領収書は経費で落とせる』のシリーズが累計50万部近くまできており、柱の一つになりつつある感じです。

菊地 実用的なニュアンスも取り入れる、と。

黒田 「新社」になって以降は、読売のグループの会社だと言われることも多いのですが、「中公×読売」であり、僕は光文社を経験してきたということで言えば、「中公×読売×光文社」でもあると思うんです。先日、KADOKAWAさんから転職してきた方が僕の上司になったのですが、その意味では「×KADOKAWA」という新たな掛け算も生まれることでしょう。編集部のメンバーも他社から転職した人間です。媒体の特長って、そうした手掛ける人間の「個性」みたいなものを取り入れた掛け算の形で出てくると考えているんですよね。だから常に変化し続けるというか、いろんな良いものを取り入れながら、進化していけたらいいなっていう思いは強いですね。

 本流の中公新書に対してハイブリッドとしての良さを追求していくというような方針ということですかね。

黒田 そうですね、まさにその表現が的確です。

 大変ありがとうございました。次月、またどうぞよろしくお願いいたします。