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新書座談会

自社以外の新書を取り上げ、その魅力をざっくばらんに語り合う「新書座談会」。今回は9月刊の新書から、ネットニュース編集者の第一人者である中川淳一郎氏の『バカざんまい』(新潮新書)を取り上げます。(構成:シエ藤)

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今回の参加者

 売り切れ続出と言われているロマン優光『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』を読んでいて思ったのですが、本編にも通じますがこのところコラム的な批評性・風刺性のある書き手のヒットが増えてきた印象があります。炎上の恐怖の前に言いたいことも言いにくい世の中ではありますが、そういう時代であっても上手に言葉に出来る人が増えてきたのかと思っています。

菊地 最近、『70歳!』(五木寛之、釈徹宗/文春新書)という対談本を読んだんですけど、若者が盛り上がるフェスやEDMとかを「あれは(昔で言うところの)『受け念仏』なんですよ」と解釈していたのが印象的です。『ロックフェスの社会学 個人化社会における祝祭をめぐって』(著:永井純一/ミネルヴァ書房)を買ったところだったので、読むのがさらに楽しみになりました。

シエ藤 ライター、生島ヒロシ研究家、松木安太郎研究家、プロ野球選手名鑑研究家。最近、生島ヒロシが『おはよう定食・一直線』(TBSラジオ)の生放送でハチミツをこぼしても、周りが驚かなくなったことに時代の流れを感じます。ただし、バスクリンをこぼした時はゲストの残間里江子氏が爆笑しておりました。関係ない話はこのくらいにしておいて、『バカざんまい』の著者・中川淳一郎氏とは10年前から一緒に仕事をさせて頂いております。

中川淳一郎氏の人柄とは

 中川淳一郎さんのヒット作には、いみじくも『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『バカざんまい』と“バカ”が付いています。今作では、<スマホに時間を盗まれるバカ><名言に感化されるバカ><タテマエの求人をするバカ>など世の中のいろんな事象について怒っている。ツイッターでも、「うんこ食え、バカ!」と常に罵倒しているイメージがあります。今回は実際に何年も一緒に仕事をしているというライターのシエ藤さんをお呼びしたわけですけども、シエ藤さんから見て中川さんは、どんな人ですか?

シエ藤 ネット上のイメージとは真逆の人ですね。以前、飲んだ後に同じ電車で帰り、先に中川さんが降りたんです。普通は、「さよなら」と車内で挨拶したら、ホームを歩いて改札に向かいますよね。でも、中川さんは、電車が出発するまでドアの前に立ち、こちらを向いて、ドアが閉まると同時に、中森明菜のごとく「ありがとうございました」と深々とお辞儀していました。凄く良い人で、偉そうにすることも一切ありません。

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 実績があり、一目も二目も置かれる人なのに、謙虚なんですね。

シエ藤 たとえば、テレビのプロデューサーの中には、本を書いたり、インタビューを受けたりすると、全部自分の手柄のように話す人もいるんですよ。低賃金で劣悪な労働をスタッフに強いておきながら、自分だけがヒーローになる。スタッフはまるでいなかったかのように扱う。でも、中川さんはそうではない。本でも講演会でも、飲み会1つとっても、ちゃんと貢献した人の名前を挙げて称賛し、時間が経っても決して忘れない。

菊地 人柄が文章からもにじみ出ているので、『バカざんまい』というタイトルでも読者に嫌な印象を与えないのかもしれないですね。

新潮新書のスタイルとピタリと一致

菊地 中川さんの文体、特に『バカざんまい』は“世の中を斜に見る”という新潮新書のスタイルを象徴していると思うんです。誰もが思っているけど口に出せないことを綴り、世の中に突っ込みを入れている。新潮新書の今年の大ヒット作である『言ってはいけない―残酷すぎる真実―』(橘玲著)も、エビデンスを提示しながら、建前ではない実際の本音を書いている。

シエ藤 新潮社のスタイルなのでしょうか。今回の『バカざんまい』も『週刊新潮』の連載をまとめたものですし、かつての『FOCUS』といい、新潮社自体が“世の中を斜に見る”会社なのかもしれません。

菊地 ライバル誌である『週刊文春』を持つ文春新書は、意外にも新潮新書とは異なるスタイルです。『週刊文春』も“世の中を斜に見る”類の雑誌ですが、文春新書は政治経済などの固いテーマが中心ですよね。

 新書界をリードする文春新書のベストテンは、王道のニュース解説がほぼ独占していますね。全般的に新書のヒット作は人間論やコミュニケーション論が中心なので、異色といえば異色です。

菊地 最近の新潮新書は、03年の大ヒット作『バカの壁』(養老孟司著)のような語り下ろしや書き下ろしが少ないのかもしれません。かつてに比べると連載モノの占める割合が高いような気もします。

 KADOKAWAには新書向けの内容を連載できるような媒体がほとんどないので、羨ましいですね。ウチも連載があると、コラムの書き手が得意とするようなコンセプトの本が増えるかもしれない。「斜に見る」企画は基本的に時事問題に絡めて世相を斬っていくことが多いし、優秀な書き手ほどまとまった時間は取れないので、大量に書き下ろすのが物理的に難しい。その点、連載だとスケジュール確保もできるからね。

菊地 日販が発行する『出版物販売額の実態 2016』を見ると、2005年の新書全体の売上を100とした場合、2015年は60.0でした。直近10年で4割も減っている。出版業界はどのジャンルも下がっていますが、4割減は厳しい部類ですね。新書が苦しい中、連載という安定した供給源を持っているのは会社にとって大きい。単に連載をしているという事実だけでなく、著者との繋がりを保てますしね。

死んでから評価するな、自分の目で評価しろ

菊地 『バカざんまい』の読者として、最も共感した項目はどこですか?

シエ藤 『世界遺産に飛びつくバカ』ですね。本に書いてあるように、「世界遺産に選ばれた」など他人が評価すると、急に飛びつく人が多過ぎますよね。僕も、そういう人種が好きではない。本では、死んだ途端に惜しんで評価する例としてレツゴー三匹が出ていますけど、マイケル・ジャクソンなんて最たる例ですよね。

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 鉄道でも廃止されると決まった途端、人が押し寄せます。

菊地 雑誌も、休刊が決まると惜しまれる。「おまえが買わないから休刊するんだよ!」というのはネット上でよく見るお約束のツッコミですよね。

シエ藤 普段から自分の目で見て、判断しろという話。自分の基準を持たない人が多過ぎますよ。

菊地 僕は『グルメサイトを信じるバカ』に共感しました。グルメサイトの点数なんて一切信じていない。自分が美味しいと思ったかどうかに尽きますよ。僕にとっては3.8でも良くない店はあるし、2.7で最高の店もある。

シエ藤 自分の基準を持っていない人は、ランキングを気にして、流行りものに乗る。

 「日本人は味を食べているのではなく、情報を食べている」という批評もありますよね。中には、評価の高い店に行ったとネットで発信することが、重要だと感じる人もいる。

菊地 グルメサイトって、すごく情報を盛っていたりするし、評価軸も主観が入りすぎていたりして、非常に疑問を感じます。僕にとっては何の変哲もない居酒屋がベストなので、グルメサイトなんていらないです。

シエ藤 あと、『集団仮装で騒ぐバカ』にも共感しましたね。結局、自分1人ではできないけど、集団になると騒ぐと書かれていました。

菊地 (担当作である『ひとりぼっちを笑うな』で)蛭子能収さんも「人って集団になると横柄になるんですよね」と言っていました。本当にその通りだな、と。

シエ藤 1人でも横柄な蛭子さんが言うと、非常に説得力がありますね(笑)。

 仮装というか、普段の姿ではできない鬱屈を吐き出しにいっている。ついでに、ゴミを置いて帰ってくるという流れでしょうか。

菊地 なぜ、ハロウィンだけ盛り上がるのか。花祭りも祝ってほしいですよ!

 もっと日本の伝統ある祭りにも興味を持ってほしい。花祭りで、甘茶を御釈迦様にかけてほしい。

「中川淳一郎氏を超えようとするバカ」

シエ藤 『野球解説者というバカ』で、同じ発言でも実績がモノをいうと綴られています。ある意味、SNSだけで吠える人に理解してほしい部分でしょうか。

 僕は共感というか、『ケースバイケースというバカ』に身につまされた思いをしました。そんなつもりはなくても、『ケースバイケースです』とよく言ってしまっている。『バカざんまい』を読むと、自分の行動を正そうと思う箇所にいくつもぶち当たります。

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シエ藤 ある種、自己啓発本でもあると思いました。1つ1つのコラムに教訓がある。

 そうですね。自分を戒められる一冊です。普段流されてやってることとかに気づかされて、「ああ、何でもかんでも飛びついたりしなくていいんだ」って思います。そうすると、SNSで上から目線でわざわざ評価を下して、悦に入ってる人とか気になってきちゃうよね。

菊地 ツイッターで多くリツイートされると、自分がすごく偉くなったかのように勘違いする人が結構いますよね。

 「あれはいい」「これはダメ」と無理に発信しなくて良いと思う。SNSは「評価をしなきゃいけないんじゃないか」という錯覚を起こさせる罪作りな部分がある。

菊地 SNSでは、まさに『中川淳一郎氏を超えようとするバカ』がいる。

シエ藤 中川さんはネットニュース編集者の第一人者であり、ヒット作を生んでいるという実績がある。そして、何より人格者であり、相当な努力家です。

菊地 SNSで吠えたところで、中川淳一郎さんにはなれません。