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新書座談会

今回のゲストは、光文社新書編集長の三宅貴久さんです。今年の10月で創刊15周年を迎える光文社新書の特色や、これからの展望について語っていただきました。聞き手は、角川新書編集長の原孝寿と編集部員の菊地悟です。

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今回の参加者

 光文社新書さんといえば、前田亮一『今を生き抜くための70年代オカルト』、そしてその対極ともいえる高橋昌一郎『反オカルト論』を面白く読みました。70~80年代にテレビのゴールデンタイムを彩ったコンテンツは、最近ではNHKが取り上げたりするようになってきました。新書でも時代とともに妖しい書籍は減り、新書でこのジャンルに取り組むのがアカデミックな光文社新書さんというのは興味深いところです。

菊地 本文でも触れていますが、販売部所属時代から新書を担当していた僕はカッパ・ブックスについてかなり研究していました。写真で紹介している非売品の『マスコミの眼がとらえたカッパの本』(加藤一夫編集/光文社刊)ほか2点は私物で、自宅から持ってきました。編集者となった今、僕はカッパ・ブックスの編集方法で作っていると言っても過言ではありません。

三宅 角川新書さんのラインナップを見て、「やられた!」ということがよくあります。読者が求めている著者、テーマのすくい上げ方が早くて上手いなと思います。そして、間口は広いけれど、中身はしっかり作られている。齋藤孝先生の『語彙力こそが教養である』が出たときも、ちょうど語彙力の本を準備していたこともあり(石黒圭著『語彙力を鍛える』、まさに「やられた!」でした。

創刊15周年の光文社新書、三代目編集長です

 光文社新書は2001年10月に創刊され、ちょうど先月15周年を迎えました。三宅さんは何代目の編集長でいらっしゃるんですか?

三宅 三代目ですね。ぼくは創刊時からのメンバーです。もともとはカッパ・ブックス編集部にいたのですが、当時は実用系の新書の売れ行きが思わしくなくて。カッパ・ブックスとは違った、教養系の新書レーベルを立ち上げようということになってできたのが現在の光文社新書です。

 編集部は現在何人体制でしょうか?

三宅 私を入れて7人ですね。全員専任です。

菊地 単行本などはやらない?

三宅 やってもいいことにはなっています。コミックエッセイを担当した部員などもいますよ。

菊地 『炭水化物が人類を滅ぼす』のマンガ版ですよね。あの、新書でベストセラーになったものをコミックエッセイなど別の形態でアウトプットするというのは、我々も関心を持っているところです。

 三宅さんご自身はずっと新書編集なんですか?

三宅 1994年に新卒で光文社に入社して、最初の4年間は販売にいました。ただ、販売のなかでもノンフィクション系の本を担当していたので、入社してからずっとノンフィクション畑ですね。

菊地 ぼくも偶然ながら一緒です。いま入社13年目なんですが、最初の6年営業をやっていて、他のジャンルの担当もやりつつ、一貫して新書にかかわっています。

三宅 原さんはいかがですか?

 ぼくは7年間制作にいました。そのときにちょうど角川oneテーマ21が立ち上がることになったのでフォーマットの決定などにたずさわり、そこから新書編集にうつりました。以来ずっと新書をやっていますね。

菊地 ぼくも原も、KADOKAWAグループの統合前から角川書店にいて、角川oneテーマ21の時代から一緒なんですよ。その後、アスキー・メディアワークスから出ていたアスキー新書や、角川SSコミュニケーションズから出ていた角川SS新書の立ち上げ時にも販売ノウハウを提供したりしてたんですが、このたび会社の合併にあわせて、メディアファクトリー新書もふくめた4つのレーベルがひとつになって角川新書が生まれたという経緯です。

三宅 統合されたことで、編集者の人数はやはり減りましたか?

菊地 そうですね。でも、その時点でアスキー新書とメディアファクトリー新書は専属の人間がいなかったので。

 実質的には角川SSCとoneテーマ21が人数を減らしてひとつになったといえますね。現在の編集部員は9人です。でも、単行本や文庫も手掛けているので、光文社新書さんの専属で7人というのはうらやましいです。

三宅 一人当たり年間何冊くらい出されるんですか?

 ぼくは編集長ということで、全体の管理に専念するためにだいぶ減らすように言われていて、今年は6冊ですね。

菊地 ぼくは例年、年間20冊弱くらいですね。

 みな前年に自分が作るべき予算案を提出して編集に臨むわけなんですけど、平均すると単行本・新書・文庫など含めて15冊くらいかな。販促にもっとエネルギーを割いたほうがいいので、少し多いかなとは思っていますが……。

三宅 うちも予算制度ですね。でも点数を作れるので、いろいろな企画にチャレンジできるのはうれしくないですか?

菊地 それはありますよね。ぼくは6年営業にいたこともあって、同世代の編集者と比べると担当作の点数はやはり少ない。いろいろな方とお付き合いしつつやっていきたい気持ちもありますから、どうしても担当冊数が多くなりますね。

「カッパ(ブックス)ではないものを」

 話が戻りますが、光文社新書の創刊15周年というのはもうだいぶ老舗と言えますよね。実感はいかがですか?

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三宅 作っている側としては、そういう意識は全くないですね。編集部も私が46歳で最年長だし、著者の方の平均年齢も比較的若いので、なんとなくずっと「青年新書」のイメージでいます。

 初期のころは、一時期自己啓発的な、旧カッパ・ブックスの流れを取り入れたヒット作が多いなと思いましたが、この数年は丸山宗利・著『昆虫はすごい』、橋爪大三郎・著『教養としての聖書』など教養的なヒット作が多いように感じます。アカデミックというか、時代や世相に乗るだけでなく、長持ちする本をつくろうとされているのかなという。

三宅 若手の研究者の方にお願いしよう、というのはありますね。「新しい書き手で新しいテーマを」ということと、「カッパではないものを」というのを意識した結果です。もともと光文社新書の立ち上げ時にはカッパ・ブックスも存続しており、その住み分けも必要でした。

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 光文社新書さんとちくま新書さんが、いつも最先端の若手研究者をおさえていらっしゃるなと思って眺めています。

三宅 ちくまさんとは合同フェアをやったこともありますね。依頼に行くと「ちくまさんが先に来ている」と言われることもあります(笑)。 光文社新書のキャッチフレーズは、創刊以来「知は、現場にある。」なんです。創刊当時の教養新書は、まだアカデミズム中心でしたので、もう少し仕事の現場などの生きた言説や体験を拾っていこうと考えて作ってきました。ちょうど若手の研究者で、現実的な問題を取り上げる面白い書き手の方が出てきているタイミングというのも良かったです。

 団塊ジュニア世代ですね。

菊地 SYNODOSさんといっしょにイベントをやったりしているのもおもしろいなと思っていました。

三宅 そうですね、トークイベントを社内で開催してその内容をまとめるということもしていました。

菊地 ほかの版元があまりやらないジャンルにいろいろ挑戦されているとも思ってます。宇宙ものが多いなーとか。

 三浦展さんの『下流社会』のように、マーケティング本も光文社さんが嚆矢かなという気がしますね。

三宅 ありがとうございます。「きちんと独自路線を築けている」というほめ言葉を、うちのエラい人にも聞かせたい(笑)。

10年前比で4割減という市場規模

 さっきはちくま新書さんと似た感じと申し上げましたけど、新書全体でみたときには、一方でかなり独自路線をいっていると尊敬しています。いまの新書業界って、2大週刊誌を擁する新潮新書と文春新書がツートップで、どうしてもその二つのカラーに引っ張られがちです。

菊地 ぼくが最近おもしろかったなと思ったのは、『島耕作の農業論』です。
企業経営者の新書って最近は刊行自体も少なくて、時代の流れとかもあると思うんですけど、じゃあ今新書を出せる企業経営者って誰だろうというのを考えていた時に「島耕作じゃん」と思っていたんです。島耕作が著者の新書(笑)。『島耕作の農業論』は弘兼憲史さんが著者ではありますが、光文社さんが出されたのを見て「やられた!」と衝撃を受けました(笑)。

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 そういう企画ができるのも、光文社新書さんならではだなと感じますよね。

三宅 ありがとうございます。まあ、ちくま新書さんはやらないでしょうね(笑)。
ところで、新書全体のマーケットを見てどう思います? かなり悪くなっている感じがしませんか?

 そうですね。平台に置いてもらえない本は本当に売れない。

三宅 若手の新しい著者に依頼しつつも、安定感のある方にもお願いして、バランスを保っていく必要があるなと思っています。

菊地 この間、日販が発行している『出版物販売額の実態2016』という統計資料を読んだんですけど、新書の売上って10年前と比較して4割減なんですよ。かつては毎年生まれていたミリオンセラーが「数年に1回」になり、40万~50万部に達する作品も減って、20万部がやっとになっている状況ですよね。

 角川新書はそもそも一番売れた本でも50万部なんですが、光文社さんはミリオンセラーもあるわけですよね。過去との比較で苦しまれることはあるんですか? 周りに「また、あのネタで出せばいいじゃない」と言われたり。

三宅 それはありますけれど、まだ編集の立場にも理解があるのはありがたいですね。売れ行きとは別に「あの本面白いね」と声をかけてもらうこともよくありますし。
もちろん50万部や100万部といったチャンスは逃さないようにしようと話していますし、毎年の予算達成はマストですけどね。

 その言葉だけでも救われますよね。

三宅 さっき菊地さんが「光文社新書には宇宙ものが多いんじゃないか」と指摘してくださいましたが、宇宙ものをずっと追っている編集者がいるんです。糖質制限本、カープ本を継続的にやっている部員とかもいます。もちろん、ある程度数字が出ているのでやれるのですが、編集者の個性を生かすことが、結果的に数字につながる部分もあると思います。

新書タイトル、縦書き? 横書き?

 いま新書業界では全帯や幅広帯で顔写真を使うのが流行っていますね。光文社さんはずっと文字のコピーでみせるというのをやってきましたけど、装丁や帯へのこだわりについて伺いたいです。

三宅 創刊のときはかなりシンプルでしたね。色はぜんぶ中間色で統一され、帯のコピーは明朝の細い書体で3行というフォーマットでした。それもおそらく、カッパのごちゃごちゃした装丁に対して、手触りもふくめて、若い読者や、女性読者にも気持ちよく手にとってもらえるようにしたいということだったと思います。今もその名残は残っていますね。

 うちも細かくバージョンを変えているし、小学館新書さんや集英社新書さんは最近リニューアルされましたけど、15年間一貫してアラン・チャンさんが装丁したカバーを使用されてますよね。 今年Twitterで話題になっていた「#あたりまえ新書」というのがありました。新書の表紙に「空気の80パーセントは窒素」とか「人は食べる生き物」とか、本当に当たり前のフレーズを入れても、実際に出版されていそうに見えるという遊びなんですけど、光文社新書の装丁をイメージしたものが多く使われていました。ネット世代にとって新書といえば光文社新書だし、やっぱりおしゃれなイメージがあるのかなと思いました。

三宅 最初は「地味だ」と言われることも多かったんですよ。でも今は、「変える必要はないよ」という声がとても大きいんです。愛されているなあと思う反面、実は一つネックがあって、タイトルが縦書きだと、帯の幅を広くできないんですよ。

 あ〜、そうですよね。PHP新書さんなんかはもうタイトルに帯かぶせちゃってるときもあるけど(笑)。

三宅 それくらい使いたい写真があればいいんですけどね。タイトルが横書きの装丁は、そういう意味では魅力的ですよね。

 悩ましいですよね。うちはもともと縦書きの装丁だったのを横書きにしたんですが、そうすると長いタイトルにできないんですよ。表現がおさまらなくて苦しんでしまうときがあります。あと横書きとなると帯が必然的に大きくなるんですが、そこで使う写真に悩む。アカデミックなテーマのものだと、ふさわしい写真がないケースも多いですよね。

三宅 著名な著者さんや、テレビなどで顔の売れている方ならその近影でいいですけれど、そうじゃない方もいますしね。

菊地 写真を入れたうえで帯の文字を縦書きにしないとバランスが悪いんですよね。講談社現代新書なんかは、表紙のまんなかに四角があることで、デザイン的になんとかなるんですけど、うちは文字だけだから全部横にするとすごくバランスが悪くなる。
一方で、ぼくはタイトル縦書き時代に『42.195kmの科学』という本をつくったんですが、それはそれで文字を並べるのが大変でした。結局、42だけ横にならべて並べて中黒打って、195は1文字ずつ縦に並べたんですけど、どういう並べ方でも誰かしらが違和感を訴えるという状況でしたね……。

 縦書きにも横書きにもそれぞれのデメリットがあるんだけど、いずれにしても装丁を変えるとなると、既刊の装丁をどうするかという問題もありますしね。光文社新書さんのように既刊が充実されているところだと、もしリニューアルしたら書店さんが大変だと思います。

三宅 そうですね。ただ、全体的なリニューアルはしていませんけれど、一部オリジナルカバーで出しているものもあります。全帯にするくらいなら、最初からオリジナルカバーでもいいんじゃないかと。全帯っていかがですか?

 全帯の効果はかなりなくなってきてますよね。それ自体に読者や書店がインパクトをもってくれればいいんだけど、もうみんなやってて新鮮さがありません。まあ新書を読んでいない若い人に気づいてもらうためにいろいろ工夫するのは当然ですし、これからはもっと全帯が普通になっていくかもしれないですが。

三宅 他の置き場への営業もしやすいですからね。

 点数も多い時代ですし、レーベル買いをする人はいなくなりましたからねえ。

やっぱりミリオンセラーを目指したい

菊地 もうひとつ聞きたいことが。光文社新書さんって「小説宝石」に連載枠を持っていて、それを新書化するという取り組みをされていますよね?

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三宅 そうです。常時4本くらいお願いしていますね。
一時期「本が好き」というPR誌があってそれを連載媒体として活用していたのですが、休刊してしまいまして。評判もよかったので、残念でなりません。連載媒体の問題は、常につきまといますね。それがあるだけでも恵まれているのでしょうが。

 いまはなかなか一冊書き下ろしを依頼すること自体がむずかしいので、うらやましいですね。新潮新書さんだったら「新潮45」、文春新書さんだったら「文藝春秋」やその別冊のように、連載の場があるレーベルは強いなと思います。

三宅 連載をするということは、その原稿料がのってくるんですけどね。

 それに媒体を自分たちで立ち上げるとなると人手がいりますからね。そういう意味でも「宝石」さんとの協力体制があるのはすばらしいと感じます。一応社内の媒体で連載することはできるんですが、枠が確保してもらえているという体制ではないし、手間がかさみますね。

三宅 「小説宝石」は、媒体の性格上、連載できるテーマが限られるので、ビジネス系の記事とかができる媒体があればいいなとは思っています。 「小説宝石」以外だと、「ウェブ女性自身」で連載をすることもあります。去年刊行した島田裕巳さんの『お経のひみつ』はそうですね。ただ、「連載するなら紙がいい」という書き手の方も多いです。

 ネット全盛の時代ですし、紙媒体でなくてもメルマガやあちこちのバイラルメディアなども駆使して原稿作りするのももっと増えていいと思いますね。さて最後に、今後に対する意気込みなどをいただいてもいいでしょうか?

三宅 内容的なことと数字的なこと、両方頑張っていきたいですね。今のところミリオンセラーは「さおだけ」しかないので、次を目指したいなと。本音を言えば10万部の本でも十分ですが(笑)。
 一方で、「多様なものを出している」と言っていただけたので、それは売上を確保しつつ続けたい部分です。「光文社新書のラインナップを見るとわくわくするね」と言ってもらえれば本当にうれしいです。とはいえ、理想と現実のギャップに引き裂かれる日々ですが……。

 編集者としてやりたいことと、上から要求してくることと、マーケットが望んでいること、3者のバランスをとっていかないといけないですからね。来月もまたいろいろ伺えればと思います。ありがとうございました。