連載コンテンツ

新書座談会

自社以外のオススメの新書をピックアップして、ざっくばらんに語り合う「新書座談会」。今回は新書大賞を運営する雑誌『中央公論』の斎藤孝光編集長にお出でいただき、「新書大賞」の裏側と、今もっとも売れている『応仁の乱』(著:呉座勇一)についてお話をうかがいました。(構成・平松梨沙)

1704_zadankai_1

■今回の参加者

 今回の新書大賞で原が投票した5作品についてはNOTEで書かせていただきました。「他の人は投票しないかもしれないが、私が入れなくて誰が入れる」と今回は気合の票でしたが、ほとんどランクに絡まずに終わりました。しかし、本当に面白い5作品でしたのでぜひご覧いただければと思います。 https://note.mu/haratakatoshi/n/nea4f1253c888

菊地 「新書大賞2017」「同 2015」では担当作に投票してくださった方がいて誌面で書名が紹介されたことは、とても嬉しかったです。今後もこうした本を担当できるようにがんばります!

藏本 「『応仁の乱』はなぜ売れたのか?」で新書が作れそうなくらい、僕らだけでなくさまざまな方が仮説を唱えていますが、決定的な答えはいまだにわかりません。なお、本文に出てくる「先の大戦=応仁の乱」は、戸板康二さんに聞かれた近衛文麿・元首相が応えたものだとか(『編集手帳』による)。

 斎藤 (「中央公論」編集長)「新書大賞」を10年も運営している雑誌の編集部として、『応仁の乱』は売れるであろう、と予言できれば良かったのですが、全く不意打ちでした(笑)。一大旋風が吹いてから、『中央公論』(4月号)に呉座先生をお招きして対談してもらったりしていて、雑誌が新書を後追いするというあべこべなことになっております(笑)。

今年で10回目を迎えた「新書大賞」

 雑誌『中央公論』が毎年主催している「新書大賞」、今年の「新書大賞2017」の結果が3月に発表されました。2015年12月から2016年11月に刊行された新書を対象としたもので、大賞は橘玲さんの『言ってはいけない』(新潮新書)となりました。斎藤編集長は実は私の高校の先輩です(笑)。 さて、斎藤さんは今回初めて「新書大賞」の運営に携わられましたが……。

斎藤 はい。長く読売新聞の経済部の記者をしておりまして、昨年からグループの中央公論新社に出向して、編集長になりました。新書大賞自体は2008年に始まって今年まで続いているのですが、作品の選び方についてはさまざまな変遷がありました。

 最初はどういう選び方をしていたんですか?

斎藤 第1回の新書大賞は、有識者11人、各社の新書編集者13人、書店員さん6人の計30人にベスト3を挙げてもらい、順位に重み付けを与えて採点しました。この方法は基本的に現在も変わっていません。ただ、第2回は60人に1人5作、第3回は72人に1人5作と採点者と推薦作品数を増やしていったのです。これは客観性を高める上では良かったのですが、一方で、審査結果が売り上げランキングに近づくという一種の副作用もありました。市場のランキングと同じでは「新書大賞」をやる意味がありませんし、「埋もれた良書を掘り起こしたい」という当初の狙いからも外れます。以後、配点の重みづけを変えたり、投票者のカテゴリーの割合を変えたり、試行錯誤しながら第10回まで来たというのが実情です。

 今回のラインナップを振り返ると、全体的にアカデミズムに寄ったタイトルが強かったように思います。上位5作品は以下の通りでした。

大賞 言ってはいけない (著:橘玲 / 新潮新書)
2位 人口と日本経済 (著:吉川洋 / 中公新書)
3位 日本会議の研究 (著;菅野完 / 扶桑社新書)
4位 下り坂をそろそろと下る (著:平田オリザ / 講談社現代新書)
5位 応仁の乱 (著:呉座勇一 / 中公新書)


【新書大賞 特設ページ】
https://www.chuko.co.jp/special/shinsho_award/


斎藤 昨今新書の世界では、いわゆる「教養新書」ではなく、版型としては新書だけども多岐にわたった内容のものが出版され、それが売れていますよね。そういった新書すべてが「新書大賞」の趣旨に合うのか?という問題意識は常にあります。これは割と根源的な悩みでして、表彰する以上、そのカテゴリーに版型を超えた意味づけがないと成立しないのではないか。例えば「単行本大賞」や「文庫大賞」といわれても、審査基準がないと漠然としますよね。「新書」は再定義するまでもなく、中身についてのある程度の共通認識があった。だから大賞が成り立っていると思うのです。

藏本 教養新書と時事的な新書の中間‥…時事的なテーマについて、アカデミックな裏付け知識を用いて書かれている新書や、学者の方が時事的なテーマについて発言しているというタイトルが多かったように感じます。時事的なテーマに直接関係がないのは『応仁の乱』くらいなんじゃないでしょうか。

斎藤  第一回となった「新書大賞2008」の大賞は、福岡伸一さんの『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)でした。あれはまさに時事性のないテーマを扱ったアカデミックな新書ですよね。2011年の大賞作『宇宙は何でできているのか』(著:村山斉 / 幻冬舎新書)もそうです。2000年代後半〜2010年代前半にかけては、「知らない世界に入門する」というテーマの新書がランクインすることが多かったのですが、今年のランキングを見てみると、読者の知的好奇心を満たしつつ、世の中の現状とシンクロしている新書が選ばれているように思います。

 今年の大賞『言ってはいけない』はその代表ですもんね。

1704_zadankai_2

斎藤 はい。『日本会議の研究』などは、安倍政権が強いからこそランクインしたと思いますし。先行きが見えない世の中に対する「一体どうなるのだろう?」という気持ちを新書がすくいとっているのではないかと考えています。

 「新書大賞」のラインナップについて、「すでに売れている本だけが選ばれるのでは意味がない」という意見が出たという話がさっきありましたけど、実際ランキングを見ていると投票している人の側に「埋もれた良書に少しでも脚光を当てよう!」という気持ちがあるのも感じられます。2014年の第2位である『犬の伊勢参り』(著:仁科邦夫 / 平凡社新書)とか、今回の『応仁の乱』とか(2017年に入ってからはメディア露出もあり大ブレークし、3月末現在で31万部発行の大ベストセラーとなっている)。その他、ランキング外のピックアップ新書の紹介を読むのもおもしろいです。読者のみなさんには、そういったタイトルにもぜひ注目していただきたいですよね。

藏本 「こんな新書も出てたの?」と編集者でも思いますもんね。月100点以上の新書が出ているなかで、正直初めて知る作品も少なからずありました。

菊地 ランキングには出てこないところに、識者の方の趣味嗜好や「こういうものを評価すべき」という考え方が出ていて良いですよね。ぼくも、ランキング外の新書についての紹介を読むのが好きです。「新書はこんなにおもしろいよ」ということを伝えることも一つの目的だとも感じます。

斎藤 その通りだと思います。ぜひ、ランキングだけでなく、その他の推薦本も注目して欲しいです。

スキャンダルに対するタブー意識が緩和してきた?

 また「時事」という切り口と別の確度からランキングをみると、雑誌ジャーナリズムを取り入れた新書がたくさんランクインしているなと感じています。私は今回角川新書編集部の代表として投票させてもらいましたが、『電通とFIFA』(光文社新書)に一票入れました。

藏本 まさに週刊文春や週刊新潮の連載でやってそうな内容でしたね。

 週刊誌で掲載していてもおかしくないような、ハードに内幕を暴露するようなものが新書のかたちで出てきている。今年は「週刊文春」がスクープの連発で地位を上げたことで、そういったスキャンダルの暴露に対するタブー意識が緩和されたようにも思っています。その結果、新書の世界でも一歩踏み込んだ話が書かれるようになったのかなと。

藏本 昨今、多くのテーマについての一次情報がインターネット上で手に入るようになりましたが、それらの内幕をガッツリ書く役割を果たしているのは、やはりまだ雑誌や書籍の出版物ではないかと思います。

斎藤 時代とシンクロする新書の最先端の形ですね。ただ、雑誌ジャーナリズム的な新書を評価する難しさもあると思います。識者の方に寄せていただいたコメントにもそういった趣旨のものがありました。新聞記者出身だから過剰に考えてしまうのかも知れませんが、まだ継続中の事象を追いかけていると、事実誤認があったり、後から新事実が出てきたり、事実を掘り起こしながらも、その解釈を誤ってしまったりすることがあります。それを「1年」という短期間で評価することの怖さですね。大スクープが実は大誤報だったということがありうる世界なので。
 ちなみに今回の『日本会議の研究』は「新書大賞」の集計が終わりかけたころに、地裁で出版の差し止め判決が出ました。判決自体の当否については思うところもありますが、いずれにしても、もっと早く判決が出ていたら、投票結果が異なった可能性もあると思い、編集部内でも議論しました。結局は脚注で断りを入れて、点数通りで行くことにしましたが。

 新書大賞を運営されてみて、感じたご苦労はありますか?

斎藤 やはり「新書」というものの輪郭はだいぶ崩れてきていますよね。今年のこのランキングは問題ないと思うんですが、もっと新書の輪郭が崩れて、単に「新書」という版型が用いられただけのラインナップが増えてきたときにこの大賞をどう運営していけばいいのか、という悩みはあります。

 新書には、教養新書の流れとともに、カッパブックスに連なるエンターテインメント的な新書の流れの両方があって、その両者のいいところをテーマに応じて取り入れるのが今の新書編集者の腕の見せ所ではあるのですが。でも、そのバランスがもっと後者側に寄ってしまうんじゃないかということですかね。

斎藤 そうですね。いわゆる「タレント本」も増えてますし。

藏本 それでも、読んでいておもしろい新書はずいぶん増えたと思うんですよ。研究者の方が書いた本であっても、書き方がおもしろくなったというか……。何度も名前を挙げますけど、呉座勇一先生の『応仁の乱』はまさにその典型なのではないかと思います。名著と呼ばれる新書であっても、リーダブルかどうか、編集としての指針が見えるかといえば、そうでないものもありますし。

新書マーケットに新しいイノベーションは起きるのか

 出版全体の厳しさもさることながら、新書のマーケットが今年度だいぶ厳しく、売上も下がってはきてるんですが、まだまだ工夫の余地があるなというのはつねづね考えさせられます。

菊地 原さんの言うように個々の工夫は出てきていますが、全体として見たとき、新書市場の縮小は続いています。
 新書マーケットにはこれまで3度のブームがあったと言われています。1度目は戦後すぐ。本をつくるための紙が少なく「安くて薄くて小さい」という点で新書が重宝されて、ブームが生まれた、と。2度目は1960~70年代。国が経済的成長を成し遂げていく中で、大学で教えられるような教養を一般社会に落としこむ役割を担ったとされていますね。

藏本 いわゆる「教養新書」の流れがそこで生まれたということですね。

菊地 そして3度目が2000年前後。この3度目はうちも含めさまざまな出版社が新書レーベルを立ち上げて新書マーケットに参入、市場が拡大したタイミングですね。でも実は、この2000年前後の第三次ブーム以降、新書は何のイノベーションも起こせていないようにも感じます。拡大できずにシュリンクし続けている。一般文庫はメディアミックスというラノベの手法であった「キャラクター小説」の作り方を採り入れ、コミックジャンルではコミックエッセイに特徴的ですけどウェブ上での人気作を出版するという流れが確立した。こうした他のジャンルのように、何らかのイノベーションが起きないと新書市場の縮小は止まらないだろうなぁと思います。

 たしかに15年前の「大ヒット」タイトルは、少なくとも100万部くらいを売り上げていたのに対して、現状の新書マーケットは、一番売れている『言ってはいけない』ですら40万部ですからね……。

斎藤 やはり他のジャンルと比べても、新書は元気がないと感じますか?

菊地 元気ないですよね。販売会社の調査資料なんかを読むと、2005年と2015年のジャンル別販売数を比べて新書は10年前に対して60%くらいにまで下がっているんです。文庫市場も下がっているとは言っても70%台だったと記憶していますから、新書の落ち方は大きいと言えます。

斎藤 なるほど……。

菊地 2000年前後の第三次ブーム以降、大手古書店での新書コーナーも拡大しましたし、こうした中古市場に流れていくものも増えてきているのではないでしょうか。

 猟奇的な事件が起こったときに中野信子さんの『サイコパス』(文春新書)が売れる……とか、何か大きな事件が起こったとき、それに関するテーマを扱った新書は売れるんですが、それ以外のタイトルはなかなか動かないですよね。それなのに今でも新規レーベルが登場して刊行点数自体は増えているので、市場の奪い合いになってきているのではないでしょうか。細かいトピックに対して似たような新書が出されているから、読者が飽きてきている感じはある。

菊地 そのうえ、今までは新書がニュースの解説の役割も担っていましたが、今はその役割をウェブのコラム記事やまとめ記事に奪われてきていますし……。

藏本 新書一冊分の情報まではいらない、っていうことですよね。

 憂慮すべきは、2000年代に主力だった50〜60歳代の購買層が減ってるんですよ。若い人が新書を買わないのは元からなんだけど、それでも以前は売れていた「就活本」のようなジャンルも元気がなくなっています。読書習慣のありそうな40〜50代に向かって球は投げるんだけど、なかなか当たらない……という状況ですね。

なんで売れたのかわからない? 『応仁の乱』

1704_zadankai_3

斎藤 弊社から刊行された『人口と日本経済』『応仁の乱』について、「ここまで売れた理由がわからない」と社内で言い合っているんですが……(笑)。みなさんから見てどうですか?

菊地 中公さんでわからないものは僕たちもわからないです(笑)。中公新書さんは歴史ものを定期的に出されていますけど、「なんでこの年のこの戦の新書が売れるの!?」というのはこれまでも感じたことはありました。最初は『応仁の乱』もそういう類のものかと思っていましたが、ここまでバーンと売れたのは何なんですかね。

藏本 僕は『人口と日本経済』は拝読した当初から「売れる」と思っていました。あれ、帯の惹句がすごくよかったんですよ。

 「日本の衰退は必然? 経済学の答えはNO」というものでしたね。

藏本 人口論ってある種外れがない学問で、確実な知識でもあり、それこそ『地方消滅』のように新書ではずっと人気があるテーマです。日本の人口はよっぽど対策をとらないと確実に減っていく。そこは間違いないでしょうけど、そこから一般的に言われる「日本経済はこれ以上成長しないから、今あるぶんを分け合っていこうという」という考えには反感を持っている人は一定数いる。そこに訴えかけるものだったと思います。
 『応仁の乱』に関しては、帯もかっこいいなと思ったんですが、決定的な要因はわからないですね……。話題になってからは「なんで売れてるかわからないから、とりあえず買ってみよう!」という流れはあったと思います。「なぜか話題沸騰!」という広告を実際出されてましたし(笑)。あれはキャッチーでした。

 まあ、実際「ランキングにあるものはランクインしているというだけの理由で売れる」というのはマーケティングの大事な要素です。20万部を超えてくると、もう本の中身だけで売れているのではないと思います。

藏本 業界人に限らず「これ読んでないってどうよ?」というプレッシャーはありますよね。無論、積ん読になっている人(とりあえず買ってまだ読んでいない人)も少なからずいるでしょうけど。

菊地 新書に限らず、今、一番本が売れるプロモーションは「誰かの熱狂」だとぼくは思っています。ストレートな告知宣伝よりも、よくわかんないけど誰かがSNSで熱狂している状況を見ると「なんだろう?」って思う。エクスクラメーションマーク(!)がたくさんついたつぶやきとか。

 SNSの発達によって生まれたプロモーションだよね。

菊地 『夫のちんぽが入らない』(扶桑社)の初速の良さはこれをしみじみ感じました。本だけでなく、映画にも顕著ですね。『シン・ゴジラ』『君の名は。』『この世界の片隅に』とか。なので、『応仁の乱』も似たような熱狂が功を奏したんじゃないかな、と。「そもそもなんで応仁の乱なんだ!?」「あのマイナーな戦についての新書を、中公新書が出してきやがったぜ!」みたいな歴史クラスタはいたんじゃないでしょうか(笑)。

藏本 実際、僕も歴史クラスタのツイートはときどき拝見していますけど、呉座先生にSNSをよく使うファンが付いている、というのは間違いなくあると思います。

新書の売上を左右する「隠れバズワード」

 僕は、『応仁の乱』には「隠れバズワード」が含まれてるので売れたのかなと思ってます。

斎藤 というと?

 「バカ」や「日本」とつく新書は売りやすい、というのは業界でも周知のことなんですけど、「京都」というのもかなりのバズワードなんです。井上章一さんの『京都ぎらい』(朝日新書)も新書大賞に選ばれましたし、実際かなり売れました。『応仁の乱』は、タイトルに「京都」は入ってませんけど、もうそのまま「京都」の話じゃないですか。京都について語りたい人がたくさんいて、それがあの熱狂につながったのかなと。

1704_zadankai_4

藏本 それはあるかもしれませんね。そのうえ、「応仁の乱」って授業で習ったことはあってみんな知ってるけど、説明しろと言われるといまいちあやしい、「知識の隙間」的な存在じゃないですか。そこに知識人たちが引っかかったのかなというのもあると思います。

菊地 話題にしやすくてネタにしやすい、誰も傷つかないテーマだったのはあるかもしれないですね。「京都の人が”こないだの戦い”って言ったときは第二次世界大戦じゃなくて応仁の乱らしいぞ!」みたいなツイートを見かけました(笑)

斎藤 ひとつの新書の売れた理由を考えるだけでも、いろいろな切り口が出てきて非常におもしろいですね。

 「新書大賞2018」に向けて抱負などございますか?

斎藤 そうですね。一つは新書大賞をもっと知ってもらえるようにしたいですね。11年目に入るわけですから、チェンジするにはいいタイミングだと思っています。具体的な絵図があるわけではないですが、そのためには、色々な仕掛けも必要かと思っています。
 私自身元々出版の人間でもないので、今日のような情報交換の場は非常に勉強になりました。そもそものあり方も含め、さまざまなプロの意見を聞きながら、よりよい形で新書の魅力を伝えていければと思います。

原・菊地・藏本 ありがとうございました! 今後も楽しみにしています。